気が付けば大晦日を迎え、城中でも粛々と年越しの準備が行われていた。
 忌み明けでもあり、また当主不在とあって宴席の準備や松飾りなども控え目な雰囲気が漂う。

 辛気臭くて福も逃げ出す、と遊佐は深々と溜息をついて見せた。

「オレだったら若ダンナの横でフツーに宴会やるね。どーしてこう年寄りって発想が暗いの?」

「お前は突飛すぎだろ・・・」

 違う意味で支癸が溜息を返す。
 気持ちは充分判るが、年寄りには年寄りの慣わしがあるものだ。さすがに歳上だけあって、支癸は世代の折り合いというものも理解していた。 

 今朝は早くから、下働きの下女らが城内のあちらこちらで掃除や片付けに精を出す姿を見かける。特に蔵の整理は年に一度とあってバタバタと小忙しい。
 いつもならこの風景に感慨深く新年のあらたまりを実感するものだが、気掛かりを残して心機一転とはいかない。
 覚羅山の洞で、氷凪はいまだ眠ったままだ。 

「あっと言う間に一年も終わりだねぇ・・・」

 しみじみと遊佐が言う。

 支癸は短く、そうだな、と返す。覗く冬晴れの空に目を細め。
 咲乃にもそろそろ覚悟をつけさせるつもりだ。どこかで切りをつけなければ誰も前を向けなくなる。

 氷凪の目覚めを信じて揺らがない遊佐。
 石動を背負う無月は何を選ぶ。
 二度目の溜息は、支癸の中に溶けて消えた。