こうして三人が揃うのも珍しいが、必ず誰かが訪れその日の様子を報告しあう。それが常となっていた。

 無月は氷凪に近づくと、いつもの様に唇に触れ呼吸を確かめる。幽かに感じる吐息。ほっと安堵して軽く氷凪の頬を撫でる。外気に晒されている分、冷んやりとした陶器のような肌触りがした。

 今一つ奇異な現象があった。氷凪の髪色だ。
 洞に運び入れてから二週間も過ぎたころだろうか。つむじの辺りから次第に、黒髪が青味がかった白銀の髪へと変色してしまったのだ。
 これにはさすがの咲乃も言葉を失っていたが、気丈な彼女は『・・・きっと氷凪様の翡翠色の瞳によくお似合いですわ』と、艶やかに微笑んで見せたのだった。


「要は冷凍状態、・・・冬眠みたいなモンなんだよな」

 支癸が溜息交じりに、屈み込んで氷凪を見つめる無月の頭上で呟いた。

「春になりゃ目が醒める。・・・とかか?」

「お姫様のキスで目覚める。・・・なんてのも、あるケドな」

 冗談とも本気ともつかない真顔で遊佐が言葉を被せると、何だそりゃ、と支癸は眉を顰めた。

「若ダンナが起きるんなら何でもするって話だよ・・・」

 信じて待つ以外、なにが出来るだろう。無月が見たという夢に一縷の望みを託したものの〝答え〟などどこにもない。

 いつか奇跡が起こるのだろうか。
 いつまで当主不在で持ち堪えられるか。
 タイムオーバーは、いずれやって来る。
 焦りと苛立ちがせめぎ合うのを溜息で逃す。遠子や咲乃達には見えない場所で。





 帰りがけ、遊佐が寄り道してから帰ると言ったのを、支癸は見透したように目線だけ傾げた。

「みんなに宜しくな」

「あいよ」

 後ろ手を振り、別の獣道へと遊佐は消えた。行き先が西の谷だと二人とも知っていたから余計なことは訊かない。
 先の戦で命を落とした夜見の仲閒と、久住と夏目の二人もそこに葬られていた。