あれから二ヶ月が経ち、石動は雪の散らつく師走月を迎えた。

戦の爪跡をところどころに残し、西の谷には真新しい墓が7つ増えていた。領民も戻り、荒らされた田畑や囲い柵などの修復に追われて毎日が過ぎる。全て元通りという訳には行かなかったが、平穏な生活を取り戻しつつあった。

「寒っっ。また雪だねぇ、こりゃ」

厚い雲に覆われた空を見上げ、遊佐が独りごちた。

「天然の冷蔵庫で良かったじゃねぇかよ」

大股で岩を昇りながら支癸が受け応えている。

洞に続く岩場を、遊佐、志癸、無月の三人は慣れた風で進んでゆく。毎日のように行き来するうちにすっかり道が出来上がり、今では咲乃も天音に伴われて通うまでになっていた。

「・・・あまり雪深くなられるのは考えものだな」

無月が少しばかり溜息を漏らす。

足場が悪く遭難の危険性も否めない。領地内の山とは言え救助もままならないだろう。戻ったらさっそく非常食や燃料の準備を・・・と頭の中で廻らせると、遊佐も同じことを言った。

「1泊か2泊ぐらい出来りゃイケんでしょ」

三人が向かっているのは、城の北側に位置する覚羅山の天然洞窟だった。ここは先だっての裏山の避難先とは別もので、領民は山自体に立ち入りを禁じられている。昔から石動開闢の祖を奉った聖域とされており、千鳳院家ゆかりの者のみが足を踏み入れられる禁域でもあった。

立春、夏至、立秋、冬至には必ず設えられた祭壇に榊と神酒を供え、洞を清める。里の繁栄を願い、無月も幼い頃からこの神事を欠かした事は無かった。だが時節を外れ、こうして日参しているのには別の理由があった。

やがて洞に近付くにつれ誰も無口になっていく。どこか厳しい表情で、静まり返った洞窟内に躊躇無く足を進める。

すると広い空洞に突き当たり、最奥に神棚、その手前の石の祭壇には横たわる氷凪の姿があった。