「無月だったら確実に俺を殺れただろうになぁ」

 おちょくってるのか、久住は太刀を右肩に担ぐ格好のままで構えもせずに軽口を叩いた。

「オマエらと闘(や)りあうつもりはねぇんだよ。大人しく退いとけ、遊佐、支葵」

 言われた二人は無言で答えない。殺気だけを遠慮無しにぶつけ返している。しかし久住は、それすらも意に介していない様子だった。

「それより俺と来い! こんな山奥で腐らせとくには勿体ない腕してんだからよ。でっかく生きろよ、こんなチャンス滅多に無ぇだろうが」

 久住の目に宿る光は狂気などではなかった。夜見の総領そのままの自信を放っていた。それは二人が誰より判ることだ。
 沈黙したままイエスともノーとも言わないのを、久住は更に言い被せた。
 口角を上げ、すぅっと目を細める。

「氷凪のボーズには不運だが、夜見が在る限りいずれ石動は潰される運命だ。列強諸国に目ェ付けられちまってるんでな。今がちょうど潮時だ。・・・このまま砂の船に乗っかって一緒に沈没してやるような、お人好しに育てた憶えはねぇがなぁ」

 それを聞いた遊佐が視線を外さず、ゆっくりと構えを解いた。
 一瞬、久住に勝ち誇った笑みが浮かぶ。

「・・・なるほど。本気なのはよーく判った」

 ポーカーフェイスを向け、遊佐はじっと久住を見据えた。

「さすがのオレも若ダンナに悪いかなーと思ってさ。ちょっと迷ったんだけどねぇ」

「・・・おい! 遊佐テメェ、何寝ボケてやがるっ」