「城は私と遊佐に任せてくれ。・・・氷凪、お前は久住や支葵と最前線だな」

「いいだろう」

 わざと挑発的な笑みで無月は氷凪を煽る。
 彼より十は年若い石動の主は低く、だが凛として言い切った。

「やるからには全力だ。一気に片を付けて終わらせる。無駄死には赦さねぇ。各自、万全の態勢で臨め・・・!」




 さまざまな準備の為に一旦その場は解散となった。
 広間に残った氷凪は開け放った広縁に佇み、高く澄み渡った空をじっと見上げていた。

 秋の涼やかな風がどこからか、金木犀の香りを運んでいる。
 作物の収穫も終わり、領民は冬を前に貯えの作業に追われていたところだろう。その労苦を踏みにじる心苦しさに、氷凪は胸の内で頭を下げる思いだった。
 尚のこと、この決戦に敗北は有り得ない。里を奪われれば民はどれほど虐げられ苦しめられるか。
 氷凪は碧い焔を眸の奥に揺らめかせる。
 それは静かに激しくたぎる怒りの焔だった。