その瞬間は滑稽なくらいに呆気なかった。

 如月本陣の喉元にまで詰め寄った夜見は、守備隊から放たれる矢の嵐を潜り抜け最後の防衛ラインを突破した。
 しかし既に敵将の姿は無く、敗北を悟って逃走を図った後だった。

「チッ・・・!! 何なんだ、コイツらはっ!」

 鎖鎌を思い切り暴れさせた後で、支癸が敵兵の骸に唾を吐き捨てた。

「勝手に喧嘩売ってきやがったクセして、最後はトンズラかよ?! ふざけんな! 無月ッ、俺に追わせろ、皆殺しにしてやる・・・!!」

 これほどまで怒気を露わにした支癸を見るのは、誰も初めてだった。

 今までの死闘が一体何だったのかと嗤いたくなるような結末。
 無傷である者など一人もいない。鎖帷子の胴衣を着込み、致命的な一撃を避けられはしても、腕や足を覆っている着衣はあちらこちらに裂傷があって、流れ出た血が固まっている。どれだけの死傷者が出たのか、見当すらつかない。
 しかし無月は〝也叉〟を鞘に戻すと、ただの墓場と化した戦場を見渡し、終結を口にした。

「・・・追撃は認めない。今は他にすべきことがある筈だな?、支癸」 

 口惜しげに歯噛みしながらも、どうにか堪えている支癸の背中を宥めるように、遊佐がとんと軽く叩いた。

「それにしても・・・なぜ種子島を使って来なかった?」

 厳しい顔付きで推測を廻らせる無月に注目が集まる。

 終わったことだと言えばそれまでだが、それにしても不可解だ。
 最後の防衛ラインが鉄砲隊だったら夜見とて容易には突破出来まいし、勿体をつける位なら敵前逃亡する必要もないではないか。