嵯峨野は微かに笑った。
みすみす氷凪を殺させはしない。もしも万が一にも氷凪が謀殺されたなら。命尽きるその瞬間まで、関わったあらゆる者に報復を。
負けん気の強い生意気だった子供を、懐かしく思い出す。
翡翠色の眸を持って生まれた石動の次代当主を有り難がって、安泰と繁栄の吉兆だと誉めそやす者も多かった。それを容赦も遠慮もなく鼻っ柱を叩き折り、君主の器に氷凪を育てあげたのが久住と無月だった。
嵯峨野自身、剣の相手を務めながら、氷凪の成長ぶりを共に見守ってきた一人だ。
最初はただ負けん気が強いだけなのかと思っていた。
闇雲に竹刀を点き出してくるのを簡単に払いのけるたび、悔しそうに睨み上げてくる。そのうち嵯峨野の動きをきちんと見るようになり、間合いも取れるようになった。
いつだったか、なせ剣が強くなりたいかを訊ねた事があった。
『・・・負けることが嫌いですか?』
すると、あどけなさを残す氷凪は嵯峨野をじっと見上げてこう言った。
『おれがまけたら、石動がまける』
まだ10か11にならない時だったかと思う。己が何であるかを芯から自覚している者の言葉だった。
おそらくその時から嵯峨野は、命を賭けるべき人生(みち)を見い出したのだ。氷凪を生涯ただ一人の主だと。
先行きを愉しみにしていた。雄々しく成長するだろう若獅子の征く道を。だからこそ、こんなところで死なせる訳にはいかない。死なせない。
「氷凪殿が跡継ぎの心配だなどと・・、本当に大きくなりましたね」
慈しむような嵯峨野の眼差しに、氷凪は少し驚き照れ隠しなのか、ついと前を向く。
「・・・お前こそ、年寄り臭いぞ」
「そうですね」
嵯峨野は薄く笑みを流して一瞬瞑目した。
開かれた眸からは、一切の感傷が消えて。
凍てついた殺気がその奥に揺らめく。
誇り高き戦鬼のごとく。
みすみす氷凪を殺させはしない。もしも万が一にも氷凪が謀殺されたなら。命尽きるその瞬間まで、関わったあらゆる者に報復を。
負けん気の強い生意気だった子供を、懐かしく思い出す。
翡翠色の眸を持って生まれた石動の次代当主を有り難がって、安泰と繁栄の吉兆だと誉めそやす者も多かった。それを容赦も遠慮もなく鼻っ柱を叩き折り、君主の器に氷凪を育てあげたのが久住と無月だった。
嵯峨野自身、剣の相手を務めながら、氷凪の成長ぶりを共に見守ってきた一人だ。
最初はただ負けん気が強いだけなのかと思っていた。
闇雲に竹刀を点き出してくるのを簡単に払いのけるたび、悔しそうに睨み上げてくる。そのうち嵯峨野の動きをきちんと見るようになり、間合いも取れるようになった。
いつだったか、なせ剣が強くなりたいかを訊ねた事があった。
『・・・負けることが嫌いですか?』
すると、あどけなさを残す氷凪は嵯峨野をじっと見上げてこう言った。
『おれがまけたら、石動がまける』
まだ10か11にならない時だったかと思う。己が何であるかを芯から自覚している者の言葉だった。
おそらくその時から嵯峨野は、命を賭けるべき人生(みち)を見い出したのだ。氷凪を生涯ただ一人の主だと。
先行きを愉しみにしていた。雄々しく成長するだろう若獅子の征く道を。だからこそ、こんなところで死なせる訳にはいかない。死なせない。
「氷凪殿が跡継ぎの心配だなどと・・、本当に大きくなりましたね」
慈しむような嵯峨野の眼差しに、氷凪は少し驚き照れ隠しなのか、ついと前を向く。
「・・・お前こそ、年寄り臭いぞ」
「そうですね」
嵯峨野は薄く笑みを流して一瞬瞑目した。
開かれた眸からは、一切の感傷が消えて。
凍てついた殺気がその奥に揺らめく。
誇り高き戦鬼のごとく。