あらためて思う。
 未熟なりに一国の主を務めて来られたのも、全ては傍で支えてくれる皆があってこそだ。
 国を守らねばならない自分もまた、無月や嵯峨野達に護られて来たのだ。今までも、今もこうして。
 もしもこの先、石動を存続させる為にこの首が必要ならいつでも差し出す覚悟はついている。氷凪は、己の命を賭ける時を選び違えまいと心に固く決していた。

「嵯峨野」

「はい」

 前を見据えたまま凛とした横顔を見せた氷凪に、嵯峨野はついと目を細めた。何かを秘めているという予感。

「・・・この戦で俺に何かあったら、千鳳院の後継は夕だ。直系じゃねぇが血筋には違いない。お前は即刻、西宝寺に向かい継承の段取りを組め。・・・いいな」

 氷凪に兄弟はなく、まだ子もない。万が一を考えての遺言だった。
 嵯峨野はややあってから小さく息を吐き出し、返答した。

「承知しました。・・・と言いたいところですが、殿以外のことは範疇に無いもので」

「・・・・・・」

「甲斐にも言い置いて来ました。殿に万一のことあらば、西宝寺には永劫戻らぬからと」

 無月よりも二つ上の割りに童顔な嵯峨野に目線を傾げられ、今度は氷凪が吐息をつく。

「・・・ったく。遊佐と言い、少しも俺の命令を聞きやがらねぇ」

「すみません」