里を守りぬき、如月勢を徹底的に叩き返さなければ平穏は戻らない。仕掛けてきた相手を潰すことは他国への牽制にもなる。
 要は二度と手出しさせなければいいのだ。そこで無月が策を口にした。

「ある程度のリスクも承知の上で城まで手勢を引き寄せ、発破をかける。その間に別働隊に敵将の首を捕ってもらう」 

「二手に別れるってワケ?」

 ふーん、とまずは遊佐が喰い付いた。

「斬り込み隊長は俺がやる。悪いがこの役は譲らんぞ。いいな、ボーズ」

 氷凪の剣の師匠でもあり、城の主を坊主呼ばわり出来る唯一の豪傑が久住だ。
 もうとっくに無月との間で段取りはつけてあるのだろう。表情を険しくした氷凪にも構うことなく、話を先に進めていく。

「発破を扱えんのは俺のほかに誰だ?、遊佐」

 チッと舌打ちをして、面白くないとばかりに遊佐は久住に恨みがましい視線を送った。
 
「・・・残りゃいーんでしょ、残りゃ! ったくさぁ、ひさびさにストレス解消しよーと思ったのに発破係とかって」

「あー心配すんな。お前なら余裕で、お客を殺りながら発破かけられる」

 ククッと笑いながら遊佐をいなす二人を見ていると、まるで緊張感の欠片も無い。

 石動は閉鎖的な里で知る者は限られたが、久住を筆頭に、千鳳院家を支えてきた側近の家系はほとんどが忍びの流れを汲んでいた。
 剣術、体術に長ける者、動物を操る技者、火薬など特殊な細工を得意とする者など様々だ。
 能力の高さから言えば、如月の雑兵衆なぞ取るに足りない相手だった。問題は数だったが、勝機はあると確信していたのかも知れない。