「氷凪殿・・・ッ、みな無事かッ?!」

領民を避難させるべく西宝寺に向かわせた嵯峨野が戻ったのは、城での迎撃戦が氷凪達の圧勝で決着した頃だった。
 
「お、嵯峨野だ。おかえり」

息を切らし、ここまで駆け通しだったらしい嵯峨野に、遊佐がいつもの調子で声を掛ける。

「ちょうど良かった、隊長達を追うから若ダンナを頼むわ」

「・・・遊佐!」

同時に氷凪が強い目線で遊佐を制した。

「俺が出る」

「無月も言ったろ?うっかり死なれちゃ困るんだよ。どーしてもなら嵯峨野に止めさせるケド?」

「・・・っ」

性に合わないと、普段は装備しない太刀を背に帯刀し、遊佐は冷ややかに氷凪を見下ろした。

「向こうも狙ってんのは若ダンナの首だってコト、忘れんな。まだ城に何か仕掛けてくる可能性もある、気ィ抜くなよ?」

言うだけ言い、横目だけで嵯峨野と物言わない会話を交わす。嵯峨野はしっかりと頷いて細く笑んだ。

「姫と天音殿は裏山の洞窟だ、心配ない」

「・・・そうかい」

ふっと口許を緩ませ、だがすぐに夜見の表情に戻った遊佐は、5人ほどを連れて颯爽と城門の向こうに消えて行った。