中腹で敵を待ち受けていた支癸達は、向かって来る相手を斬り倒しながら、先攻する無月達を追って下へ下へと進むことだけを考えた。
 初めは団子状態での交戦も、すぐに散り散りの混戦状態となっていた。

 夜見では珍しい鎖鎌の使い手でもある支癸の、有効射程内に入った者は体の一部を刈り取られ、あるいは首が飛んだ。
 如月勢のうち、おそらく半数以上に突破されただろうか。
 遊佐のことは心配ないと踏んでいたが爆音が轟いて届いた瞬間、支癸は思わず後ろを振り仰いでいた。

 黒煙が立ち昇るのが見え、火薬と焼け焦げた臭いが風に浚われて来る。人間を粉々に吹き飛ばす威力では後片付けが面倒だと、真面目な顔で遊佐が火薬の調合に悩んでいたのを思い出す。 

 駆け下りる石段に無造作に如月の兵が転がっていた。その中に幾つか、黒の忍び装束姿があったのも支癸は目にした。
 まだ息はあったかも知れない。それでも立ち止まれない。里を護るために、かけがえのない仲閒を見殺しにして。終わったその後に一体何が残るのか。

「・・・クソがっ!」

 低く呻るように自分に吐き捨て、支癸は久住達を追った。
 死ぬのも死なれるのもいい加減、真っ平だ。
 二度目の爆発音が轟いたのを今度は振り返りもせず。

 ほんの少し咲乃を思った。
 これが終わったら氷凪とさっさと祝言を挙げさせて、甥っ子でも姪っ子でも、子供が出来たら俺もとうとうオジサンかよ。
 
「な、何が可笑しい・・・っっ?!」

 どうやら支癸は笑ったらしい。対峙した敵兵がヒステリックに喚く。

「・・・ああ? テメェには関係ねぇな。邪魔する奴は、ブチ殺すだけだからよ」

 ささやかな未来。ささやかな日常。奪う者には死を。勝とうが勝つまいが、如月は俺が根絶やしにする。
 空を切る鎖鎌の鋭い咆哮は、支癸の心そのものだった。

 

 やっと見覚えのある朱色の背中を捉えた支癸の目には、空の色など映らない。今日はやけに紅ばかり目に付く気がする。
 知らず支癸は、苦い笑みを漏らしていた。