「石動城主、千鳳院氷凪殿とお見受けするっっ・・・!!」

朱色の陣羽織を着た長身の無月の前に、鎧武者が立ちはだかっていた。

如月の本陣まであと僅か。際だって人目を引く出で立ちと、先頭を切る姿をそう勘違いしたらしい。無月は刀の血糊を凪いで振り払い、一度鞘に戻すと真っ向から見返して返答する。

「・・・いかにも」

相手はさぞや闘気が沸き返ったことだろう、千載一遇の好機を逃すものかと。蓋を開けてみれば、互いに討つべき者の顔も知らない有様だ。そんな戦だった。

脇にいた久住に、先に征けと目線で促し無月は構えに入った。久住はそのまま、付いて来ていた夜見と共に前方へと走り抜けて行く。

まだ鉄砲隊の姿がどこにも無い。やはり氷凪を置いてきて正解だったと、無月は内心で笑みを漏らす。この先はきっと地獄に一番近いはずだ。

武者が威勢よく刀を振り上げ斬りかかってきたのを、身を翻して躱しながら、真一文字に愛刀〝也叉(やしゃ)〟を振り抜いた。地面に転がった敵兵に一瞥もくれず無月は久住を追う。

不意に左側に気配を感じた。追いついて来た支癸だった。

「・・・悪ぃ待たせた」

「首尾は?」

「まあまあ」

「この先はきついぞ」

「・・・だろうな」 

支癸の口調は重かった。

城に通じる石段に雪崩れ込んで来た50人近くの如月勢に対し、たった15人ほどで討って出たのだ。仕掛けたトラップで多少の戦力は削いだものの、数の上で石動が厳しい状況であることに変わりは無かった。