「若を心置きなく戦わせるためにも、行かないとダメです。姫様の覚悟は天音も若も解っています。でも誰だって大事な人を絶対に死なせたくない。そんな潔さ、自己満足でしかないって遊佐に言われました」
「天音・・・・・・」
「この部屋には外に通じる隠し通路がある。とりあえず、裏山の洞窟に向かいましょう。あそこには動けずに避難してる人達もいるし、そうそう見つかりませんから」
西宝寺へ逃れるという選択肢をあえて外したのは、咲乃が納得しないだろうことと、天音自身のゆずれない本心。遊佐の無事な姿をこの目で確かめるまでは里を離れない、と。
「・・・判りましたわ」
小さな溜息を漏らし、氷の姫は口の端をほころばせて見せた。
出来るものなら。
この戦の結末と石動の運命を、自分の目で肌で、見届けたかった。氷凪の血も涙もこの手で受け止め、全てを別ち合いたかった。
でもそれは、戦う術を持たない非力な女の感傷なのかも知れない。きっと彼女なら愛しい人と共に駆けてゆけるのだろうに。
ふとそんな想いが咲乃の胸中を掠めていった。
「参りましょう。どこに在っても、わたくしは氷凪様の妻ですもの」
艶やかな微笑みを浮かべ、咲乃はすっと立ち上がった。
力強く頷き返した天音が手を引き、どんでん返しの壁の向こうに二人の姿は消えた。
戦況はいまだ混迷を辿る。
空だけが高く、晴れやかに。
命が失われてゆくさまを見下ろして。
「天音・・・・・・」
「この部屋には外に通じる隠し通路がある。とりあえず、裏山の洞窟に向かいましょう。あそこには動けずに避難してる人達もいるし、そうそう見つかりませんから」
西宝寺へ逃れるという選択肢をあえて外したのは、咲乃が納得しないだろうことと、天音自身のゆずれない本心。遊佐の無事な姿をこの目で確かめるまでは里を離れない、と。
「・・・判りましたわ」
小さな溜息を漏らし、氷の姫は口の端をほころばせて見せた。
出来るものなら。
この戦の結末と石動の運命を、自分の目で肌で、見届けたかった。氷凪の血も涙もこの手で受け止め、全てを別ち合いたかった。
でもそれは、戦う術を持たない非力な女の感傷なのかも知れない。きっと彼女なら愛しい人と共に駆けてゆけるのだろうに。
ふとそんな想いが咲乃の胸中を掠めていった。
「参りましょう。どこに在っても、わたくしは氷凪様の妻ですもの」
艶やかな微笑みを浮かべ、咲乃はすっと立ち上がった。
力強く頷き返した天音が手を引き、どんでん返しの壁の向こうに二人の姿は消えた。
戦況はいまだ混迷を辿る。
空だけが高く、晴れやかに。
命が失われてゆくさまを見下ろして。