少し前から激しい攻防の気配が近付いていた。どこかで火薬玉の破裂したと思われる爆音と同時に、ガタガタガタッと館全体が振動で揺さぶられる。

「咲乃様っっ」

西側の最奥の間で、咲乃を保護していた天音が庇うように彼女を抱きすくめる。音と衝撃は一瞬だったがキシキシと家鳴りが続いていた。

間近く城内に敵を引き入れるだろうと察知した天音は、氷凪の私室から咲乃を移動させていた。4帖半ほどの納戸仕様になっているが、外に通じる隠し戸が細工してある。天音がこれを知る筈もなかったが、戦いに赴く前に氷凪が言い置いたのだった。

『西側の一番奥から脱出しろ』

ここに残った咲乃の気持ちも痛いほどよく解る。足手まといになるのならば自らの命を絶つ覚悟で、少しでも長く傍に居たい気持ちは天音も同じだった。今ごろ遊佐は掃討戦の最中(さなか)だろうか。

そして二度目の爆音が館中を振動させた。怒声のような悲鳴のような声が断続的に起こる。だが先ほどのような勢いの喧騒ではなくなった・・・と天音は感じた。

今ならば。そう決断した天音は抱え込むようにしていた咲乃を離し、その両手をぐっと握りしめた。

「・・・姫様、若のご命令です。今から二人で城を出ます。私が必ずお守りしますから、我がまま言わないで下さいね」

「な」

何を勝手な、と言いかけた咲乃ははっとして口を噤む。自分よりも3つも年若い彼女の眼差しが、これまでに無いほど冷ややかで厳しかったからだ。

有無を言わせない強さで天音は言い募る。