日の出とともに本殿の大広間には32名全員が揃う。皆、思い思いの忍装束姿だ。久住、遊佐、支癸は、背や腕に金糸で刺繍された家紋を入れており、遠目からも見分けられるよう工夫している。

氷凪は上下黒の袴姿で、白地に金の縁取り刺繍をほどこした陣羽織という出で立ちだった。そして背には愛刀〝月清(つきさや)〟を帯刀している。

それを見た久住はからかうように軽口を叩いた。

「そんな恰好で斬り合えんのはボーズくらいだろうよ」

鎧甲冑など誰ひとり身につけていない。機動力が武器の夜見にとって、そんなものは足枷と変わりがなかった。

「てか・・・無月のそういうカッコ初めて見た」 

遊佐がまじまじと見やる。

普段は参謀として氷凪のかたわらに在る無月は、やはり袴姿が常だ。長い黒髪を後ろで一つに束ね、闇色の忍装束、朱色に銀糸の縁取りの陣羽織で身を包んだ姿はいつにも増して、纏う空気が鋭かった。

気分の問題だ、と端正な顔で薄く笑み、無月は氷凪に視線を傾けた。

「氷凪、前線には私が出る。お前は遊佐とここで“客”を出迎えてくれ」

「な・・・!」

「確率の問題だ。いくら素人扱いとは言え種子島は厄介すぎる。前に出して、うっかり死なれでもしたら取り返しがつかない。・・・判ってるだろうが、石動の存続は領地の死守とお前の生還が絶対条件だ、忘れるな」

冷ややかに言い切られ、氷凪はぐっと言葉を詰まらせた。無月の言うことは至極もっともだ。しかし自ら討って出ることこそが当主としての本懐だった。

城に残る方だとて、断じて易くないことは承知している。敵を城内に引き込むタイミング、火薬玉を爆破させるタイミング。誤れば無月達が敵将に届く前に城が堕ちる。
 
己の矜持を我がままに貫いて本末転倒では意味もない。氷凪は口惜しさを滲ませながらも、判った、と低く呻った。

「・・・そういう訳だから久住、支癸、よろしく頼むよ」

無月が二人に向かって口の端を緩ませた。久住と支癸は顔を見合わせると肩を竦め合う。

「無月においしいとこ全部持ってかれないよう気をつけろよ?オッサン」

「お前こそ、俺達に置いてかれねぇようにしっかり付いて来い、小僧」