「つか、一人あたま二、三人のノルマでしょ。イケんじゃないの?」

 何てことのないように遊佐が言う。「やるしか無いだろ」

「俺らはいい。里の連中をどうするよ?」

 もっともな意見を出したのは支癸だった。領民や城詰めの臣下の家族など、非戦闘員の方が多いのだ。

「・・・久住、誰か西宝寺(さいほうじ)へやってくれ。一時的な避難先として領民を受け容れてくれるよう先触れを頼む。それと嵯峨野」

 氷凪に名を呼ばれ、嵯峨野は無言で頷き返す。
 あまり口数は多くないが、穏やかな気質で領民からの信頼も厚い。何より腕が立つ。速やかに領民を退避させ、一行を率いて西宝寺に向かうよう、氷凪は嵯峨野に命じた。

「病人や年寄りで、どうしても動かせない者は裏山の洞窟に隠せ。・・・あそこならそう易々とは見つからねぇ。食糧と薬を出来るかぎり残しておけ」

 それもある意味、賭けではあったがもう時間の猶予がない。生かせる者を生かす為の苦渋の決断だった。

 嵯峨野はスッと立ち上がり一礼すると、刀を手に隙のない所作で広間を後にする。
 決して容易い使命でないことは百も承知だ。この逃避行に随行させられる人員数も限られる。慣れない山道を女子供含め100人近くとなれば、並々ならない。
 西宝寺は山ひとつ向こうとは言え、明日の早朝に発ったとしても送り届けて、戻るまでに間に合うか。

 氷凪の傍でならいくらでもこの命は散らせる。それまでは死ねない。
 前を見据える眼差しを引き締めて、嵯峨野は刀を握る手に力を込めた。


 広間に残った主要な面々は、打つ手を他にも考えなければならなかった。
 圧倒的に石動が不利なのは明白だ。だが、だからと言って降伏も隷属も答えはNOだ。