「最初から、如月がうちに仕掛ける道理がない。領地拡大のほかにも、石動を落とした暁には何か口利きでも約束されたか・・・。種子島までちらつかされて、良いように踊らされたな」

 よしんば如月がその役目を果たせなかったとしても、石動も無傷では済まない。戦力を削ぐことが目的なのかも知れないと無月は推測していた。
 出過ぎたつもりが無くとも、疑心暗鬼に喰われた輩の目には、夜見は脅威としか映らなくなったのかも知れない。
 

 石動の起源は、忍び者の隠れ里だと云われる。
 受け継がれてきた技や知恵の数々を活かし、里を繁栄させたいという願いが結びついたのだろうか。つましい財源を潤す手段として、古くから“夜見”と称される傭兵部隊が石動には存在していた。

 大国には元々、甲賀などいずれかの流れを汲んだ忍び者が定着しているものだ。それを逆手に取って、夜見の『商売』相手は中堅の諸国大名達だった。
 諜報活動から時には、暗殺も請け負う。しかし約定は例外なく、夜見の絶対中立を謳わせた。つまり戦には一切加担しないことを鉄の条件としていた。

 夜見は戦闘集団ではないのだ。領民の暮らしを少しでも安寧に保つ為の稼業であり、みな石動を支えてきた自負があるからこそ誇りを持って生きている。
 だが。不穏な空気に晒される今の世にあっては、その理想も通用しない。

 夜明けの見えぬ未来と、重しを増された現実。
 無月は嘲笑を浮かべ、胸の内で思い切り刃を振り抜いた。
 それでも前に進む以外、出来ることなど何もないのだ。

「・・・いずれにしても、あれは単発式で武器としては効率が悪すぎる。どのタイミングで種子島を使ってくるかだな」

「数も少ない。せいぜい、あっちの大将の盾にするぐらいじゃねぇかと思うが・・・」

 無月の言葉に久住が首を傾げて見せる。

「まあ、どっからか狙われるってのが一番厄介だな。真正面で構えてるヤツなんざ放っておきゃいい。どうせ当たりゃしねぇよ」

 判ったかボースども、と氷凪と支癸に向かって厳しい視線が投げられた。