如月の里の動向を探っている夏目の許から緊急を報せるハヤブサが戻ったのは、戦いの火ぶたが切って落とされるだろう前日の夕刻のことだった。
 行軍を追跡しながらすでに石動の近くまで戻っているはずだが、今になって何が、と誰もの表情が硬く引き締まった。

 書簡から小さく折りたたまれた紙を取り出し、目を走らせた久住はチッと舌打ちをする。

「・・・どうかしたのか」

 訊ねる氷凪の声も心なしか低い。

「〝種子島〟10丁合流・・・とあるな」

「種子島ぁ?!」

 遊佐が思わず素っ頓狂な声を上げた。「そんなモン、どうやって!」

 種子島とは南蛮渡来の火縄銃を指す。
 とうてい一般に流通しているような代物ではない。織田や武田、上杉クラスの大名ならいざ知らず、小国の田舎領主が手に入れられる筈などないのだ。

「やはり裏に黒幕がいるな」

 小さく息をつき、無月が氷凪を見やった。

「・・・どこかの小心者が〝夜見〟を潰しにかかってるんだろう。何のために協定を結んでやったんだか。『絶対中立』の意味が判らんとはな」

「つまりは如月に種子島をくれてやって、てめぇは高見の見物を決め込んでる・・・てか」

 支癸に頷き、無月は続ける。