「最初から死ぬ気でいるヤツは死ぬに決まってんだろーが。そんな半端で使えねーヤツに、オレが姫を任せるとでも思ってんの?若ダンナにもいい迷惑だ」

「でも、だって・・・っ」

「自己満足で死にたいなら勝手に死にな。オレは泣かねーから」

「待っ・・・!」

そう言い捨て踵を返した遊佐の背に、天音はぎゅっとすがりついていた。

「・・・離せよ」

「やっ、やだ、よ・・・ッ、い、・・・かないで、遊佐・・・っ!」

押し殺した嗚咽が漏れ続けるのを、しばらくそのままで遊佐は大きく息をついた。体を返すと、華奢で小柄な天音をすっぽり腕の中に抱え込んでやる。

「・・・あのねぇ。オレは天音に一生懸命に生きて欲しいだけでさ、命捨てさせるために夜見にしたんじゃない。いつも言ってんだろ?オレらに替えはねーんだから、手足の2、3本置いて来ても必ず戻れって」

小さく頷きが返る。

「オレの傍にずっといたいんなら何がなんでも死ぬな。でなきゃオレはさっさと他のオンナ見つけて、どっか行っちゃうよ?」

目を見開いて勢いよく上を向いた天音のあまりのぐちゃぐちゃな顔に、遊佐は吹き出して、なんだかなぁと独りごちる。

夜空に浮かぶ下弦の月も細く笑ったようだった。