「なんだ天音、ここにいたんだ」

西の見晴らし台に登り、ひとりで夜風に吹かれていた天音は、後ろから気配もなく現れた遊佐の声に慌てて振り返った。

「どこにも見当たらないから探した」

相変わらずの人なつっこい笑いで、遊佐は天音の隣りに立つ。

二人並ぶと流石に狭い見晴らし台からは、普段は眼下にちらほらと見える家の灯りは全く見えない。見渡すかぎりの漆黒の闇。彼方を見つめて二人はしばらく黙ったままだった。

「咲乃ちゃんは若ダンナと一緒?」

遊佐の質問に天音がこくりと頷く。

「邪魔しちゃ悪いから、見張りも兼ねてここにいた」

「そっか」

「・・・遊佐」

「ん?」

「咲乃様は絶対にあたしが死なせないから」

「で?代わりに死ぬ気なの?オマエが」

遊佐の目がすっと細まった。天音は思わず視線を逸らす。

「・・・あたしは咲乃様付きなんだから、そんなの当然だよ」

その言葉に偽りはない。咲乃が氷凪の許嫁として本殿に居を移して以来、警護役として天音が常に付き添ってきた。