「七夕は季節の変わり目の行事――日本の五節句の一つだが、日本のみならずアジア圏には七夕伝説もどきの話が掃いて捨てるほどある。それほど人を魅了する物語だということだ」

ふーん、と心の中で鼻を鳴らす。

「お前は知っているか? 七夕伝説の地として国内で有名な場所がどこか」
「知りません」

知ろうとも思わない。それに……記憶にある限り、七月七日は毎年雨だ。だから、基本的に忘れてしまうのだ。その日が七夕だと。そして、後日、ああ、そうだったな、と思い出す。それだけだ。思い入れなどない。

「なら教えてやろう」

だが、七夕に魅入られている彼は嬉々として語り出した。

「七夕伝説発祥の地と言われている場所は多々あるが、有名なのは大阪の枚方(ひらかた)市、及び、交野(かたの)市周辺、福岡県宗像(むなかた)市の大島(おおしま)。大きくこの二つだ」

「へぇ」と取り()えず相槌(あいづち)を打つ。それに気を良くしたのか、彼はさらに話を続ける。

「七月七日にかかわらず、七夕まつりも全国各地で行われている。有名処は仙台七夕まつりだ」
「あっ、それは知ってます。ニュースでも良く取り上げられているお祭りですね」
「ああ、他にも、愛知県の安城(あんじょう)七夕まつり、秋田県の能代(のしろ)七夕〝天空の不夜城(ふやじょう)〟、埼玉県の狭山市入間川(さやましいるまがわ)七夕まつり……と上げ出したら切りがないほど日本各地で開催されている」
「人間って基本、お祭り好きですからね」