「何がしたかったか、ですか? 何をしたかったのでしょうね? 欲するものが得られない。だから……そうですね、()えて言えば、全てを〝()〟にしたかった、でしょうか?」

ゼロの目が、庭園の向こうに建つ虚偽の静寂教団の建物を見る。

「知っていますか? 肉体に宿った穢れは死を()て精算され()ちますが、その精算先が魂だと」

『死を迎えると共に、お前が言ったように穢れた身体の記憶が全て魂に移行される。悪人は悪人の魂になるということだ。天国行きと地獄行きはそこで決定付けられる』

壱吾君の病室で天地さんはそう言った。

「その顔は……なるほど、天地蒼穹に聞いたのですね」

天地さん?
ゼロの顔に侮蔑(ぶべつ)の色が浮かぶ。

「奴は何も覚えていないくせに、今世でもまた僕の気持ちを逆撫でする」

それは低く呟くような声だったが、はっきり私の耳に届いた。

『覚えていない』とか『今世もまた』とか、どういうことだろう?
天地さんとゼロは前世で顔見知りだった、ということだろうか?

「ご存じなんですか、天地さんのこと?」
「ああ、よおくね。今世でようやくトーコを見つけたと思ったら、奴も現われた。目障りなのに常に視界に入ってくる。本当に嫌な奴だ」

「あっ……」と、因幡さんの話がフラッシュバックする。

『――彼はとある理由で身も心もボロボロになっちゃったの』

カチッとピースがはまる音が聞こえた。十円ハゲが二つもできた理由――それは、そのトーコという人を失ったからだ。