無表情で花菜を見ていたその少年は、彼女の呼びかけに、軽く眉間に皺を寄せた。
そしてそのまま、部屋の奥にあるタンスの前まで早足で向かい、引出しを開けて中身を取り出し始めた。
「まだ中身の引っ越しが終わってないんだよね」
発せられた言葉は、少し機嫌の悪そうな口振りだった。
本当は、彼はこの部屋に居たかったのではないかと心配になる。
「あの、ごめんね。部屋、取っちゃったみたいで……」
「別に」
敦大(あつひろ)は花菜の顔を見ずに素っ気なく答え、そのまま部屋を出て行ってしまった。
(あんな子だったっけ? もっと明るくて可愛くて――)
彼女はふと、ホームセンターでの敬也の言葉を思い出した。
『敦大が最近は可愛くなくてね。反抗期ってやつかな?』
「……反抗期、恐るべし。でも、敬也くんは怖くないって言ってたし、仲良くしなきゃね」
花菜は気を取り直すと、自分の荷物を取りに、一階へと下りていった。荷物を運び終えたら、今度は外を手伝わなければ。
庭には一人用の小さなログハウスが建っている。
大工である頼人(よりひと)が、趣味で昔に建てた物らしい。今日からそこが、敦大の部屋になるのだ。
「何か手伝うことはありますか?」
ログハウスの中を覗くと、そこには頼人、敬也、敦大の三人が片付けをしていた。
「わぁ、なんか、ちょっとお洒落だね。外観も可愛らしいし」
狭いけれど、一人で過ごすには充分な空間だ。
「入ってもいい?」
「どうぞ~。頼人パパの自信作だよ」
そう優しく返事をしたのは頼人だった。
「俺の部屋なんだけど」
「作ったのは、お父さんです」
少し不機嫌そうな敦大を、頼人が少しおどけたような口調で受け流した。
その微笑ましいやり取りを見て、花菜は何となく心の緊張がやわらいだ気がした。
そして一歩、ログハウスの中へ入る。
中には机やベッド、クローゼットなどの最低限必要な物が並んでいた。奥にはしっかりとトイレまで付いているらしい。
「あ、やっぱりここに居たのね。もう出掛けられそう?」
振り返ると、敦子も入ってきて部屋の中を見回していた。
「すっかり男の子の部屋になったわね。取りあえずは片付いたかしら?」
「そうだね。あとは敦大が一人で出来るだろう。じゃあ、お花見に行こうか」
そう言って、座り込んでいた敬也が立ち上がった。
「それにしても、花菜ちゃんは綺麗になったわよね。敬也の高校受験の年からあまり会わなくなっちゃったから、四年ぶりくらいよね?」
「ああ、そうだね。しかし、あの二人にそっくりだなぁ」
頼人と敦子は、不思議そうな、でも懐かしそうな眼差しで花菜を見た。
彼女はどんな顔をしたらいいのか分からなくなる。
挨拶をするタイミングを逃していた花菜は、全員がそろっている今がチャンスだと思い、思い切って口を開いた。
そしてそのまま、部屋の奥にあるタンスの前まで早足で向かい、引出しを開けて中身を取り出し始めた。
「まだ中身の引っ越しが終わってないんだよね」
発せられた言葉は、少し機嫌の悪そうな口振りだった。
本当は、彼はこの部屋に居たかったのではないかと心配になる。
「あの、ごめんね。部屋、取っちゃったみたいで……」
「別に」
敦大(あつひろ)は花菜の顔を見ずに素っ気なく答え、そのまま部屋を出て行ってしまった。
(あんな子だったっけ? もっと明るくて可愛くて――)
彼女はふと、ホームセンターでの敬也の言葉を思い出した。
『敦大が最近は可愛くなくてね。反抗期ってやつかな?』
「……反抗期、恐るべし。でも、敬也くんは怖くないって言ってたし、仲良くしなきゃね」
花菜は気を取り直すと、自分の荷物を取りに、一階へと下りていった。荷物を運び終えたら、今度は外を手伝わなければ。
庭には一人用の小さなログハウスが建っている。
大工である頼人(よりひと)が、趣味で昔に建てた物らしい。今日からそこが、敦大の部屋になるのだ。
「何か手伝うことはありますか?」
ログハウスの中を覗くと、そこには頼人、敬也、敦大の三人が片付けをしていた。
「わぁ、なんか、ちょっとお洒落だね。外観も可愛らしいし」
狭いけれど、一人で過ごすには充分な空間だ。
「入ってもいい?」
「どうぞ~。頼人パパの自信作だよ」
そう優しく返事をしたのは頼人だった。
「俺の部屋なんだけど」
「作ったのは、お父さんです」
少し不機嫌そうな敦大を、頼人が少しおどけたような口調で受け流した。
その微笑ましいやり取りを見て、花菜は何となく心の緊張がやわらいだ気がした。
そして一歩、ログハウスの中へ入る。
中には机やベッド、クローゼットなどの最低限必要な物が並んでいた。奥にはしっかりとトイレまで付いているらしい。
「あ、やっぱりここに居たのね。もう出掛けられそう?」
振り返ると、敦子も入ってきて部屋の中を見回していた。
「すっかり男の子の部屋になったわね。取りあえずは片付いたかしら?」
「そうだね。あとは敦大が一人で出来るだろう。じゃあ、お花見に行こうか」
そう言って、座り込んでいた敬也が立ち上がった。
「それにしても、花菜ちゃんは綺麗になったわよね。敬也の高校受験の年からあまり会わなくなっちゃったから、四年ぶりくらいよね?」
「ああ、そうだね。しかし、あの二人にそっくりだなぁ」
頼人と敦子は、不思議そうな、でも懐かしそうな眼差しで花菜を見た。
彼女はどんな顔をしたらいいのか分からなくなる。
挨拶をするタイミングを逃していた花菜は、全員がそろっている今がチャンスだと思い、思い切って口を開いた。