「そうかな……」


 自然な笑顔を作って返す。


「うん。すごく可愛くなってて驚いた。お兄さんじゃなくて、彼氏って言えばよかったかなぁ」


(え……?)


 一瞬、何を言われたのかが解らなかった。
 花菜はぽかんと口を開けたまま、彼をじっと見つめ返していた。


「そんなに驚かないで。冗談だよ」


 敬也は少し困ったようにふっと笑うと、彼女の頭をぽんぽんと優しく撫でた。


「これから、みんなで楽しくやっていこうね。ゆっくりでいいから、元気になって」


 そんな彼の優しい言葉に、花菜は急激に熱を帯び始めた瞼を隠すように頷いた。








 穏やかな春風が、真新しいカーテンを揺らす。
 カーテンを一枚換えただけで、部屋の雰囲気はかなり変わった。


「布団はこれを使ってね」


 敦子が、ふかふかの布団をベッドの上にそっと置く。
 淡いピンク色のそれが、より一層、この部屋を女子のものに変えた。


「本当にいいんですか? あっくんの部屋を使ってしまって」


 花菜は少し重たい段ボール箱を下ろしながら敦子に訊ねた。


「いいのよ。あの子が自分から向こうを使うって言ってきたんだから。花菜ちゃんは何も気にしなくていいのよ」


 敦子の声が優しく響く。


「荷物、まだあったわよね」

「あ、全部自分で運べます」


 花菜がそう言うと、敦子は手伝うわよ、と微笑んで、一階へと下りていった。
 彼女の荷物は、手伝ってもらうほど多くないというのに。
 花菜はよろよろと段ボールを避けながら、部屋のドアまで歩き出す。

 すると廊下から、誰かが階段を上ってくる足音が聞こえてきた。
 彼女は意味もなく立ち止まり、目の前で開け放たれているドアの方を見つめた。

 足音は間違いなくこちらへと近づいてきている。そしてそれは速度を落とすことなく、無遠慮にこの部屋へと入ってきた。

 その瞬間、花菜は驚きで、わずかに目を見開いてしまっていた。


「!?」

「……」


 二人の距離は、かなり近かった。

 部屋に入ってきた相手は、彼女よりも少し年下に見える少年だ。

 身長は花菜とちょうど同じくらいだろうか。
 さらさらな黒髪が少しだけかかった瞳はとても綺麗で、彼女はその眼差しに吸い寄せられているような気持ちになり、彼から視線をそらすことが出来なかった。


「……」

「……あっくん?」