「花菜ちゃんは他の子とは違って、まず俺の中身から見てくれたからだよ」

「中身から?」


 雅喜の答えに花菜は少し驚く。彼女からすれば、それは当たり前のことだったからだ。


「俺は昔から、人から遠巻きに見られてきたんだよ。俺のこの髪色、染めてると思うでしょ?」


 言いながら、少しクセのあるライトブラウンの髪に触れた。


「違うの?」

「これ、あんまり言ったことないんだけどさ、俺、クォーターなんだよ。祖父が外国人」

「そうだったんだ! なるほど……」


 彼の言葉に、花菜は彼のモデル体型や華やかな容姿に納得した。


「俺に最初から普通に接してくれた人は、花菜ちゃんが初めてだったんだ。凄く嬉しかったんだよ」

「昔ね、お祖母(ばあ)ちゃんが言ったの」

「お祖母ちゃんが?」


 花菜は、昔の記憶を思い返すように、ゆっくりと続けた。


「人は見かけによらぬもの。()い人か悪い人かを判断するには、まずはその人の中身を良く見てからでないと出来ない事だって。優しい人だと思って近付いたら、実は人を(だま)すような悪者だったり。逆に、怖そうな人が、本当はとても気弱で思いやりのある人だったり。そういう事って、意外とあることなんだよって」

「そうなんだ。なんだか、そのお祖母ちゃんに会ってみたくなっちゃうなぁ」


 雅喜は嬉しそうな表情で独り言のように言った。


「凄く遠くに住んでるから、ちょっと難しいかな。私も両親の葬儀(そうぎ)以来会ってないし。それまでも、たまにしか会ってなかったしね。それでも私に凄く優しいから、昔から大好きなんだ」


 花菜が笑顔で話し終えると、雅喜は彼女を見つめながら溜め息をついた。


「やっぱり、花菜ちゃんが良かったんだけどなぁ」


 そんな雅喜の言葉に、花菜はどう返したらよいものかと分からなくなる。


「あーあ、ショック! 俺、失恋か~」


 彼は片手を顔に当てて力なく言った。少しでも明るく振る舞おうとしているのは、花菜への配慮(はいりょ)に違いないだろう。


「あ、寒くなっちゃうよね。じゃあ俺、帰るよ」

「あ、うん。あの、好きになってくれてありがとう。こういうの初めてだったから嬉しかった」

「俺も、花菜ちゃんに出会えて良かったよ。じゃあ、また来年に会おうね。良いお年を」

「良いお年を……」


 そして雅喜は微笑みながら背中を向けると、そのまま歩いていってしまった。