やっとだ。朝からずっと落ち着かなかったけれど、もうすぐ約束の時間になる。

 足はまだ痛むけれど、怪我をした六日前よりは幾分(いくぶん)マシになっていた。花菜はこれから会うことになっている雅喜のことをぼんやりと考える。

 雅喜のことは嫌いではない。華やかな容姿をしていて軽い口調で話をするけれど、中身はとても真面目で思いやりのある人物だ。
 まさか、平凡な自分が想われてしまうとは思わなかった。一体、自分のどこが気に入ったのだろうか。


(ちゃんと、はっきりと私の気持ちを伝えなきゃね)


 午後二時に、この平瀬家の門の前で待ち合わせだ。
 今日は大晦日。すっきりとした気持ちで新年を迎えたい。
 恐らく彼もそう思って、約束を今日にしたのだろう。

 ゆっくりとログハウスの出入口へと歩いていく。靴では痛いので、頼人(よりひと)が貸してくれているサンダルを()いて外へ出た。
 まだ門には誰も居ない。ゆっくりとそちらへ歩いていく。


(もう来るよね?)


 花菜が門から顔を出したとき、家の塀に背中を預けていたらしい雅喜と視線が重なった。


「あ、もう来てたんだね」

「こんにちは~。俺は今来たばかりだよ」


 雅喜は普段通りの華やかな笑顔で返してくれた。


「足の具合はどう? まだ痛む?」

「うん、まだちょっと」

「そっか……」

「うん……」


 少しの沈黙。そしてその後、雅喜が先に口を開いた。


「……それじゃあ、本題」

「う、うん」

「俺は花菜ちゃんが好きだよ。だから、付き合ってもらえたら嬉しい。花菜ちゃんの返事は?」


 雅喜からのその言葉に、花菜は彼の瞳を真っ直ぐに見て口を開いた。


「小野くんとは、お付き合い出来ません。ごめんなさい」


 私は出来る限り深く、彼に頭を下げた。


「そっか、わかったよ。はっきり返事をくれてありがとう」


 そう言って、雅喜は穏やかに微笑んでくれた。そんな力ない笑顔でさえ華やかに見える。


「あの、……どうして私なの? もっと華やかで可愛くて、小野くんに似合う子なんてたくさん居るのに」


 花菜が()くと、彼は花菜を見つめて、真っ直ぐに答えてくれた。