「あ、えっと、今は大丈夫かな」

「そう」


 短く返すと、敦大は目の前の小さな机に顔を(うず)めるような体勢になった。
 一人用の机が、彼の体で半分以上隠れる。


「疲れたの? もう自分の部屋に戻っても大丈――」

「俺がここにいちゃ駄目なわけ?」


 花菜の言葉を(さえぎ)るようにして敦大が口を開いた。


「え?」


 彼を見たけれど、彼の表情は彼自身の腕で隠れていて見えない。


「ここに居たい」


 瞬間、どきりと胸に強い衝撃が走った。


「え、あ、そう……なんだ。いいけど」

「じゃあ居る」


 あの台風の日から、敦大は変わった気がする。
 それまではあまり花菜に近付こうとしてはこなかったのに、最近では気が付けば近くにいて話しかけてくる事が増えたように思う。

 甘えてくれているのならば嬉しい事のはずなのに、何故だか最近の敦大を可愛いと思えなくなっている自分がいる。

 彼の視線がこちらに向けられると、突然逃げ出したくなるような気持ちになる。
 けれども、それとは裏腹に、このまま一緒に居たいとも思ってしまう。


 このあべこべな気持ちは――。


「……今日、クリスマスだな」


 敦大が体勢を変えることなく言った。


「うん、そうだね」

「花菜にはこういう日に一緒に居たい(やつ)、居ないの?」

「別に、居ないけど。……敦大くんは?」

「居るよ」


 敦大が顔を上げて花菜を見た。
 その視線は真っ直ぐに、彼女を(とら)える。


「居る……」


 彼の声が静かに響いた。
 その真摯(しんし)見据(みす)える眼差しに、鼓動が再び強く打ち始めた。

 彼に、こんな表情をさせるような存在が居たなんて――。


「行かなくていいの? その子の所に……」


 そう言うと、胸の奥がぎゅっと締まるような感覚に戸惑う。


「……馬鹿」


 敦大がそう返すと、彼の顔はまた自身の腕の中へと隠れてしまった。