花菜は戸惑いながらも、カーテンを眺める。
 淡いピンクのフリルが付いたものや、シンプルなライトブルーのもの、繊細な小花柄の刺繍が施されたものなど、様々なものがあった。


「そのライトブルーの、いい感じ」

「これ? じゃあ、これにする? もっと見て回ってもいいんだよ」

「ううん、それにする。細いレースもすごく綺麗だし」


 了解、と言うと、敬也は窓に合うサイズのものを確認して取り出し、それをカートに入れた。


「じゃあ、行きますか」

「あの、お金を――」

「いーから、黙ってお兄さんに付いてきなさい」


 敬也は微笑みながらそう言うと、レジの方へと歩き出した。

 彼は子供の頃から変わらない。優しくて、彼の弟の敦大よりも花菜を可愛がってくれた為、本当の兄のような存在だった。


「私も敬也くんみたいなお兄さんが欲しかったなぁ」


 そんな花菜の言葉に、ほんの少しだけ前を歩いていた敬也が振り返って言った。


「じゃあ、今日から僕をお兄さんだと思ってくれて構わないよ。敦大が最近は可愛くなくてね。反抗期ってやつかな? だから、可愛い妹が出来て僕も嬉しいし」


 そう言って笑った爽やかな笑顔が、花菜の記憶の中のものよりもずっと大人びていて、少しだけ彼女を戸惑わせた。


「あの、あっくん、反抗期なの?」


 何となく彼から視線をそらしながら訊ねる。


「そうだね。あ、でも、怖くないから安心してね。不良になったわけじゃなくて、ちょっと無愛想になっただけだから」


 花菜が不安になったと思ったのか、敬也は少しだけ早口になったように返した。


「あっくんかぁ。大きくなっただろうなぁ。私の二つ下だから、この春から高校一年生になるんだよね。最後に会ったのが四年前くらいだから、小学校六年生だったのか。変わっただろうなぁ。敬也くんもすごく変わっもんね」


 そう言って、花菜は敬也を見上げる。


「僕、そんなに変わったかな?」

「変わったよ。まず身長がかなり伸びてたし、髪も少し茶色くなってるし、声だってずっと落ち着いてるし。何だか別人みたいだと思ったもん」

「中身は大して変わってないと思うんだけど、どう?」


 そう言って敬也は立ち止まり、軽く腕を広げて、体ごと彼女の方へ向いて見せた。
 そんなポーズをとったって人の中身は見えないのに。


「うん。変わってなかった」


 花菜はポーズをとる彼を笑いながら答えた。


「花菜ちゃんは変わったね」


 その言葉にどきりとする。両親が亡くなってからはあまり笑っていなかった。

 そんな彼女の今の表情は、酷く暗くなっているのかもしれない。
 悟られないように気を付けてはいたのだけれど。