「やめろよ」

「ご、ごめん。触られるの嫌だった?」

「そうじゃなくて……」


 敦大の視線が再び床へと落ちる。


「ごめんね。気を付けるね」

「あんたさ、普段、兄貴と話すの?」

「え? うん、まあ、そういう時もあるよ。昔の話で盛り上がったり。私が好きそうなお店とか教えてくれたり。今度、あっくんも一緒に――」

「お前、俺と部屋変われ」


 突然の言葉に、花菜の思考は停止した。
 今、何と?


「え?」

「いや、変わる。決定。次の休みに引っ越すから」

「そんな、突然どうして?」

「気に入らないからだよ」

「何が?」


 花菜は訳が解らない。
 確かに、本来は花菜がログハウスに住む予定だったと敦子から聞いていた。
 しかし、敦大がどうしてもログハウスがいいのだと言い出したのではなかっただろうか。


「……雷、なかなかこっちまで来ないな。今日はこのまま離れてくかもしれないな。俺、もう行くから」


 そう静かに言うと彼は立ち上がり、部屋を出て行ってしまった。


 こんな天気だからだろうか。


 花菜は敦大を呼び止めたくなる衝動に駆られる。

 そんな自分の強い気持ちに戸惑いを覚えながら、再びイヤフォンを耳に装着した。