「え、あ……」

「今は後ろに副班長が居ないから、ちゃんと手を繋いでもらうよ。はい、繋ぐ」


 少し戸惑いぎみの花菜の手を、敬也が優しく取って歩き出した。
 雅喜の時とは少し違うなとぼんやりと思ってしまう。
 少々強引だったが、意外にも雅喜の手は優しかったことを思い出した。


「ここでいいよね」


 人混みから少しだけ離れた場所にベンチがある。子供の頃からある古いベンチだ。ここなら敦大にもすぐに分かるだろう。
 私たちはゆっくりと腰を下ろした。


「そろそろお腹が空いてきたよね。花菜ちゃんは、何か食べたい物はある? 敦大が来たら、僕が何か買ってきてあげるから」

「ううん、ちゃんと自分で行くから大丈夫だよ」

「でも、またはぐれちゃったら大変だからさ。ここで敦大と待ってて」


 敬也の大きな手が、優しく花菜の頭を撫でた。
 そんな彼の穏やかな仕種に心拍数が上がる。熱がほんのりと顔まで上がってくるのを感じ、顔を少し俯けた。


「ん? どうしたの? 具合悪い?」


 敬也の手が花菜の額に触れると、そのまま頬まですべる。


「少し、熱いかな……?」


 すると突然、足元に人影が現れ、敬也の手が乱暴に離れた。


「……!」


 花菜が驚いて顔を上げると、目の前で敦大が敬也の手を掴んでいた。
 そしてそれはすぐに放される。


「敦大か。お帰り。友達はもういいの?」

「……」


 敦大の表情は、ちょうど逆光になっていて見えにくかった。


「敦大? 花菜ちゃんの体調が少し良くないみたいなんだ。だから――」

「じゃあ俺が連れて帰るから、兄貴は友達と一緒に楽しんできなよ」


 敬也の言葉を遮るように、敦大が花菜の腕を掴んで立ち上がらせた。


「それは出来ないって言っただろう。二人で夜道を歩くのは危険だから」

「何だよ! 兄貴が高校に入ったときは、みんな兄貴のことを大人扱いしたくせに!」

「あ! こら、敦大!」


 敬也に言い捨てると、敦大は花菜の手を掴んだまま走り出した。


「ちょっと、あっくん、危ないよ! もっとゆっくり!」


 花菜が叫んでも、敦大は聞く耳を持たずに、そのまま少しの間走り続けた。


「あっくん、もう、無理、走れないよ」


 花菜が、されるがままになっていた腕を少し強めに引いた。
 敦大は、はっとしたように立ち止まる。