「何? 君、花菜ちゃんの彼氏なの?」

「え、違うけど」


 敦大の代わりに花菜が返事をした。すると、雅喜の表情が普段通りに戻る。


「ちょっと君さ~、告白の邪魔しないでくれない?」

「それはどうもすみませんでした。でも家族が待ってるんで失礼します」


 雅喜に、敦大の抑揚のない声が発せられた。その表情からは、彼の心情が一切読み取れない。
 敦大は花菜の腕を掴んだまま、元の場所へと歩き出した。


「花菜ちゃん、返事、待ってるからね」


 雅喜の真剣な声が、花菜の耳に小さく届いた。









「あ、二人とも! 急に居なくなったりして、何かあったの?」


 敬也と別れた場所まで戻ると、彼が慌てた様子で近付いてきた。
 花菜が事情を説明すると、敬也は心底驚いた。


「僕が離れなければよかったんだよね! 本当にごめんね!」

「ううん、大丈夫。相手はクラスメイトだったから。ちょっと、悪戯好きな人というか……」


 ふと、先ほど頬に感じた温かさを思い出し、思考回路が鈍くなった。


「花菜ちゃん、どうしたの? 本当に、大丈夫?」


 敬也が心配した面持ちで花菜の顔を覗き込む。


「え、あ、うん。大丈夫……」


 花菜は先ほどの出来事を振り切るようにして微笑んだ。


「……」

「ん? 敦大は、なに怖い顔してるの?」

「別に……」

「……。二人とも、慣れない格好で歩いて疲れちゃったかな? どこかに座って休もうか」


 そう言って敬也が歩き出したとき、遠くの方から声が聞こえてきた。


「敦大~!」


 敦大が声のした方へ視線を投げる。どうやら、同じ学校の生徒に話しかけられたようだった。


「今度は俺かよ……。先に行ってて」


 花菜と敬也にそう言うと、敦大は三、四人ほどの少年たちが立っている場所まで歩いていった。


「行こうか」


 敬也がこちらに手を差し出しながら微笑んだ。