「見~つけた!」


 少しクセのあるライトブラウンの髪が揺れる。彼の華やかな笑顔が花菜に向けられた。


「小野くん!?」

「驚いた? ごめんね?」


 モデル体型である雅喜は、浴衣を見事に着こなしている。周りの女性たちの視線が、ちらちらと彼を追っているのが分かった。


「浴衣、可愛いね~。花菜ちゃんに凄く似合ってるよ。花菜ちゃんって、淡いブルーが好きだよね」

「え、あ、うん。ありがとう。小野くんも凄く似合ってるよ」

「ありがとう。ねえ、さっき一緒にいた人が、お世話になってるっていう家の人?」

「うん、そうだよ。……あの、」

「うん?」

「腕……」


 花菜の腕は、まだ雅喜に掴まれたままだった。


「ああ、ごめんね」


 そう言うと、彼は掴んでいた腕を放すと、そのまま手を繋ぐようにして花菜の手を握った。


「!?」


 花菜は慣れない感触に戸惑いを隠せずに雅喜を見上げる。


「あれ? ダメ?」

「こういう事って、恋人同士がする事でしょう。だからやめて」


 すると、明るく微笑んでいた彼の表情が変わった。その瞳に真剣な色が宿る。


「ねえ、花菜ちゃんには、そういう人が居るの?」

「え?」


 今までに見た事のない雅喜の表情に、花菜は見入ってしまう。


「答えてよ。……そんな顔で俺を見つめないで」


 雅喜の右手が花菜の頬に添えられ、彼の顔が近づく。


「ずっと前から、花菜ちゃんのことが好きだったんだ」


 次の瞬間、頬に柔らかな感触が伝わった。


(え――?)


 至近距離で視線が重なる。彼のその眼差しにはからかいの色は見えなかった。


「俺は本気だよ」

「おい!!」


 すると突然、後ろから聞き慣れた声が飛んできた。


「あっくん」


 追いかけてきた敦大が花菜の腕を掴み、少し控えめに引き寄せた。