花菜は目の前の敦大を、ほんの少し見上げるようにして見返した。


「あっくんさ、背、伸びたね」


 つい最近まで、敦大の視線の位置は花菜と同じくらいの高さだったはずだ。
 しかし、今では花菜の視線の高さに敦大の口元がある。いつの間にか抜かされてしまったようだ。


「そ、そう……みたいだな」


 彼も初めて気が付いたような表情で彼女を見返した。


「そ、そりゃあ、いつまでもあんたと同じだったらおかしいだろ」

「まあ、そうだよね」

「……」

「……」

「なーに二人で見つめ合ってるのかな?」


 敬也はキッチンに入ってくると、今しがた届いた段ボール箱を床に置いた。


「み、見つめ合ってねぇし!」

「あ、届かなかったの?」


 彼は棚の上からひょいとかき氷機を取りだした。


「さ、二階へ戻ろうか。ここは暑くて嫌になるね。敦大は氷を持ってきて」


 そう言うと、敬也はかき氷用の器とスプーンを三人分箱の上にのせ、二階へと上がっていった。


「あ、私も持つね。そのために下りてきたんだから」


 花菜は冷凍庫を開けて氷を取り出すと、容器の中に手早く入れ始めた。


「なあ、あのさ……、」

「ん? 何?」


 敦大が押さえている容器を見つめながら口を開いた。


「今年の夏祭りって、行くの?」

「夏祭りかぁ。まだ誰とも何も話してないなぁ。どうして? あっくん、連れていってほしいの?」

「ばっ! ……あのさぁ、俺、いつまでもガキじゃないんだけど」


 敦大が花菜を軽く睨む。その表情には、まだ少しだけ幼さが残っていた。
 そしてそれは、四年前の可愛らしさを思い出させる。


「あ、ごめんね。四年前の感覚で接しちゃうっていうか……。気を付けるね」

「……。氷、早くしないと溶けるよ」


 そう言って、花菜からアイススコップを取り上げると、彼は素早く氷を入れて冷凍庫を閉めた。