「あっくんのお陰で元気が出たよ。ありがとう」

「別に」


 相変わらず素っ気ない態度で返ってくる。

 自宅での夕食後、花菜は昼間のお礼が言いたくて、ログハウスに戻る敦大を追って庭へ出ていた。


「思いっきり泣いたら、驚くほど胸の中がすっきりしてるんだよね。これから、ちゃんと前を向いて生きて行けそうな気がしてるんだ」


 いつ振りだろう。意識的に笑おうと思わなくても笑えているのは。


「そうか」


 そう言って微笑み返した敦大の表情に、不意に胸が高鳴った。

 彼が、こんなに優しい表情を隠し持っていたなんて――。


「な、何?」


 一瞬固まってしまった彼女を見て、彼の笑顔が隠れてしまった。


「いや、あっくんて、意外と可愛く笑うんだなと思って」

「ばっ……!」


 瞬間、彼の顔色がみるみる真っ赤に染まっていく。


「ばーかっ!!」


 そう叫んで、彼は早足でログハウスへ入っていってしまった。


「あれ? 怒っちゃったかな」

「ふぅん。花菜ちゃんの表情が何となく明るくなったかなと思ってたんだけど、敦大と何かあったのかな?」


 後ろから声がしたので振り返ると、玄関のドアに寄りかかって敬也が微笑んでいた。


「敦大も何だか雰囲気が少し変わった気がするしね。まあ、花菜ちゃんが元気になったのなら良いんだけど」


 言いながら、敬也がログハウスへ近付いていく。


「敦大、今日はデザートがあるみたいだから戻ってこいよ」

「俺は今日はもう要らねぇよ」

「そうか。じゃあお前の分は残しておくから、食べたくなったら来るんだぞ」


 敬也が早足でこちらまで戻ってきた。行こうか、と言って、彼は玄関へ入っていく。

 花菜は何となくログハウスの方をちらりと見てから玄関へ入った。








 梅雨に入って、最近は雨の日が増えた。
 雲が厚いこんな薄暗い日には、両親を亡くしたあの日を思い出してしまう。

 あの日もこんな天気だったのだ。それでも今は、そんなに落ち込んだりはしない。少しずつ前を向いて歩き出せているからだろう。
 新しい生活にもすっかり慣れて、最近は昔のようによく笑うようになってきたと思う。

 駅の改札を抜けて出入口まで行くと、傘を差して歩き出す。家までは十五分ほどだ。


「おい」