翌日の日曜日は家から一歩も出ずに、殴られた頬を氷で冷やしたりして、顔の腫れが引くのを待った。
だが、1日ぐらいでは、痛みは弱くなったが、腫れはほとんど引かず、痣は残ったままだ。
樹里のことを父さんや母さんがどう思っているか気になったが、一言も触れてくることはなかった。
月曜日になっても僕の顔の腫れは引かなかった。
僕が起き出す前に母さんが部屋に入ってきて、車で連れて行くから病院に行こうと言う。
「大丈夫だよ」
病院へ行くことを拒否した。
「駄目よ。腫れが引かないのは心配だわ。一度病院で診てもらいましょう」
母さんはどうしても病院に連れいくと言って聞かない。
仕方なく病院へ行くことを承知した。
6時になると、いつものように樹里にモーニングコールをし、病院に行くから、迎えに行けないことを告げる。
「そうね。行った方がいいわ。こっちの方こそごめんね。本当なら警察沙汰になっててもおかしくないんだから。お兄ちゃんをよく叱っといたから、許してね」
樹里が珍しく申し訳なさそうに言う。
「うん。遅刻しないようにね」
「分かってるわよ」
樹里が怒ったように言った。
「じゃあ、学校で」
僕は電話を切った。
あの様子だったら、1人でも遅刻しないだろう。
学校に行く準備をしてから母さんの車で病院に行くと、どうしてこんな怪我をしたのかをお医者さんにしつこく聞かれた。
面倒なことになるといけないので、家の階段を降りるときに、寝ぼけて足を滑らせ顔面から落ちたということにしたが、お医者さんはなかなか納得しない。
僕があくまでも階段から落ちたと言い張ったので、最後は追求を諦めたようだ。
レントゲンを撮ってもらったら、骨には異常がないし、歯も折れていないということで、顔にシップを貼ることもできないから特に治療は必要ないだろうということで、2、3週間もすれば治るだろうと言われた。
それを聞いて母さんも安心したようだ。
母さんに車で学校に送ってもらい着いた時は、5時間目がもうすでに始まっていた。
母さんと一緒に職員室に行って、担任の先生に事情を説明する。
もちろん先生にも階段から落ちたという話をした。
授業の途中から教室に入るわけにもいかない。
5時間目が終わるまで職員室で待って、終わりを告げるチャイムが鳴ると、母さんと別れて教室へ向かった。
教室に入ると、クラスメイトが驚いたように僕の顔を見ている。
紀夫もびくりしたような目で僕を見た。
「どうした、その顔? 石野に殴られたか?」
紀夫は鋭い。当たらずといえども遠からずだ。
「階段から落ちた」
本当のことはとても言えない。
「どうして?」
「寝ぼけた」
「珍しいな。朝は強いのに」
さすが長い付き合いだ。よくわかっている。
「まあな。紀夫こそどうした? 顔が暗いぞ」
紀夫の顔がどんよりとしているように見えた。
「振られた」
突然泣きそうな顔をする。
「どうして?」
あんなにLOVELOVEだったのに。何があったんだ。
「俺、大阪の大学へ行くじゃないか。どうしてもそれが嫌だって言われたんだ。遠距離恋愛は無理だって」
たしかに新幹線で2時間半とはいえ、高校生にとって大阪は遠い。
「それで振られたのか」
「そうだよ。もうすぐクリスマスだっていうのに。初めてのカノジョだったのに。やってられないよ」
紀夫は頭を掻きむしった。
「仕方ないよ。きっと大阪で新しいカノジョが出来るよ」
僕は慰めるように言った。
「そうかな」
チャイムが鳴り、先生が入ってきたので、紀夫は前を向いた。
終礼が終わると、紀夫が体ごとこちらを向いた。
「クリスマス祭に行かないか?」
12月に入って期末テストも終わり、1、2年生たちは終業式前日である毎年24日のクリスマスイブに行われるクリスマス祭の準備に忙しく動いている。3年生は受験があるので自由参加ということになっている。
「なんだよ。突然。いやだよ」
僕は首を横に振った。1、2年生の時は全員参加が義務付けられていたから参加したが、自由参加の3年生になってまで行くつもりはない。
「クリスマス祭でカップルになる率は高い。ひょっとしたら、カレシを探している女子がいるかもしれないだろう? なっ、行こうぜ」
たしか、去年もそんなこと言ってたけど、クリスマス祭ではカノジョができなかったじゃないか。
「行かない」
樹里がいるからカノジョなど見つける必要はないし、もともとクリスマス祭に興味がない。
「そんなこと言うなよ。そりゃあお前には、あんな石野でもいるからいいけど。俺は1人だぜ。可哀想だろう」
そんな言い方したら樹里に怒られるぞ。
「ちょっとそれどういう意味よ」
頭の上から樹里の声がした。いつのまにか樹里がすぐそばに立って、見下ろすように紀夫を睨んでいる。
「はいはい。お邪魔ですね。俺は1人寂しく帰るよ」
紀夫は席を立つと、さっさと教室を出て行く。
「ちょっと待ちなさいよ。『あんな石野でも』ってどういう意味よ」
樹里の言葉を無視して肩を落として紀夫は帰っていく。
だが、1日ぐらいでは、痛みは弱くなったが、腫れはほとんど引かず、痣は残ったままだ。
樹里のことを父さんや母さんがどう思っているか気になったが、一言も触れてくることはなかった。
月曜日になっても僕の顔の腫れは引かなかった。
僕が起き出す前に母さんが部屋に入ってきて、車で連れて行くから病院に行こうと言う。
「大丈夫だよ」
病院へ行くことを拒否した。
「駄目よ。腫れが引かないのは心配だわ。一度病院で診てもらいましょう」
母さんはどうしても病院に連れいくと言って聞かない。
仕方なく病院へ行くことを承知した。
6時になると、いつものように樹里にモーニングコールをし、病院に行くから、迎えに行けないことを告げる。
「そうね。行った方がいいわ。こっちの方こそごめんね。本当なら警察沙汰になっててもおかしくないんだから。お兄ちゃんをよく叱っといたから、許してね」
樹里が珍しく申し訳なさそうに言う。
「うん。遅刻しないようにね」
「分かってるわよ」
樹里が怒ったように言った。
「じゃあ、学校で」
僕は電話を切った。
あの様子だったら、1人でも遅刻しないだろう。
学校に行く準備をしてから母さんの車で病院に行くと、どうしてこんな怪我をしたのかをお医者さんにしつこく聞かれた。
面倒なことになるといけないので、家の階段を降りるときに、寝ぼけて足を滑らせ顔面から落ちたということにしたが、お医者さんはなかなか納得しない。
僕があくまでも階段から落ちたと言い張ったので、最後は追求を諦めたようだ。
レントゲンを撮ってもらったら、骨には異常がないし、歯も折れていないということで、顔にシップを貼ることもできないから特に治療は必要ないだろうということで、2、3週間もすれば治るだろうと言われた。
それを聞いて母さんも安心したようだ。
母さんに車で学校に送ってもらい着いた時は、5時間目がもうすでに始まっていた。
母さんと一緒に職員室に行って、担任の先生に事情を説明する。
もちろん先生にも階段から落ちたという話をした。
授業の途中から教室に入るわけにもいかない。
5時間目が終わるまで職員室で待って、終わりを告げるチャイムが鳴ると、母さんと別れて教室へ向かった。
教室に入ると、クラスメイトが驚いたように僕の顔を見ている。
紀夫もびくりしたような目で僕を見た。
「どうした、その顔? 石野に殴られたか?」
紀夫は鋭い。当たらずといえども遠からずだ。
「階段から落ちた」
本当のことはとても言えない。
「どうして?」
「寝ぼけた」
「珍しいな。朝は強いのに」
さすが長い付き合いだ。よくわかっている。
「まあな。紀夫こそどうした? 顔が暗いぞ」
紀夫の顔がどんよりとしているように見えた。
「振られた」
突然泣きそうな顔をする。
「どうして?」
あんなにLOVELOVEだったのに。何があったんだ。
「俺、大阪の大学へ行くじゃないか。どうしてもそれが嫌だって言われたんだ。遠距離恋愛は無理だって」
たしかに新幹線で2時間半とはいえ、高校生にとって大阪は遠い。
「それで振られたのか」
「そうだよ。もうすぐクリスマスだっていうのに。初めてのカノジョだったのに。やってられないよ」
紀夫は頭を掻きむしった。
「仕方ないよ。きっと大阪で新しいカノジョが出来るよ」
僕は慰めるように言った。
「そうかな」
チャイムが鳴り、先生が入ってきたので、紀夫は前を向いた。
終礼が終わると、紀夫が体ごとこちらを向いた。
「クリスマス祭に行かないか?」
12月に入って期末テストも終わり、1、2年生たちは終業式前日である毎年24日のクリスマスイブに行われるクリスマス祭の準備に忙しく動いている。3年生は受験があるので自由参加ということになっている。
「なんだよ。突然。いやだよ」
僕は首を横に振った。1、2年生の時は全員参加が義務付けられていたから参加したが、自由参加の3年生になってまで行くつもりはない。
「クリスマス祭でカップルになる率は高い。ひょっとしたら、カレシを探している女子がいるかもしれないだろう? なっ、行こうぜ」
たしか、去年もそんなこと言ってたけど、クリスマス祭ではカノジョができなかったじゃないか。
「行かない」
樹里がいるからカノジョなど見つける必要はないし、もともとクリスマス祭に興味がない。
「そんなこと言うなよ。そりゃあお前には、あんな石野でもいるからいいけど。俺は1人だぜ。可哀想だろう」
そんな言い方したら樹里に怒られるぞ。
「ちょっとそれどういう意味よ」
頭の上から樹里の声がした。いつのまにか樹里がすぐそばに立って、見下ろすように紀夫を睨んでいる。
「はいはい。お邪魔ですね。俺は1人寂しく帰るよ」
紀夫は席を立つと、さっさと教室を出て行く。
「ちょっと待ちなさいよ。『あんな石野でも』ってどういう意味よ」
樹里の言葉を無視して肩を落として紀夫は帰っていく。