お兄さんに住所を告げると、カーナビを操作して、セットしてくれた。
車がスーっと動き出す。
母さんに電話をしよとスマホを見た。
いきなり樹里とお兄さんを連れて行ったらびっくりするだろう。
さっき時間を見た時は、寝惚けていて気づかなかったが、母さんから何度も電話がかかってきていた。
しまった。
友だちと映画を観にいくと行って家を出たきりで、夕食をいらないという電話をするのを忘れていた。
もう7時半を回っている。うちの夕食の時間はとっくに過ぎている。
母さんと土曜日は休みの父さんはイライラしながら待っているだろう。
慌てて母さんに電話をかけた。
「何してるの!! ご飯を食べずに待ってるのよ」
母さんの不機嫌な声がする。
「ごめん。友だちと映画を見に行ったあと、ちょっと色々あって。今、友だちと友だちのお兄さんと一緒に帰るから」
車の中なので、声を押し殺して喋る。
「どうして、友だちとお兄さんが一緒に来るの?」
母さんが不思議そうに聞き返す。
「もう少しで着くから、ついてから話すよ」
車が家の近くに来たことに気づいて、「もしもし、ちょっとどいうこと?」と喋っている母さんに構わず、電話を切った。
「もうこの辺だと思うんだけど、車を停めるところある?」
お兄さんが聞いてきた。
家にも駐車スペースはあるが、父さんと母さんが共用で使っている軽自動車を止めたらもう停める余地はない。
家の近くにコインパーキングがあるのでそこに停めてもらうことにした。
コインパーキングから家までは3分ほどかかる。雨はすっかりあがっていた。
家のドアを開けると、玄関に母が待っていた。
「どうしたのその顔」
僕の顔を見るなり母さんの顔が曇った。
「すみません。わたしのせいです」
樹里が申し訳なさそうに後ろから声を出した。
「どなた?」
母さんが冷めた目で樹里を見る。
「わたし、石野樹里って言います。澤田君とはお付き合いさせてもらっています」
樹里が躊躇いがちに言った。
「石野……さん? お付き合い? どういうことかしら?」
母さんが納得いかないというような顔をする。
「うちのバカ兄が勘違いして、隆司君を殴ってしまって。ほら、こっちにきてちゃんと謝りなさいよ」
樹里は自分の後ろに立っているお兄さんの腕を引っ張って無理矢理前に出す。
「突然すみません。樹里の兄の幸雄です。ちょっと誤解をしてしまって……申し訳ありません」
幸雄さんが頭を下げた。
僕はお兄さんの名前を聞くのをすっかり忘れていた。
幸雄さんって言うんだ。
「誤解ってどういうことかしら?」
母さんの顔が険しくなる。
「玄関で何してるんだ。とにかく入ってもらいなさい」
奥から父さんが出てきて、母さんに言った。
「どうぞ」
母さんがお客さん用のスリッパを出して2人に勧める。
「お邪魔します」
樹里とお兄さんが恐縮しながらスリッパを履く。
「病院行かなくて大丈夫?」
母さんが二人の後ろから歩く僕の頬を撫でた。
「大丈夫だよ。まだ少し痛いけど、骨とか折れていないみたいだし」
安心させるように微笑んだ。
ダイニングに入ると、テーブルの上には鳥の唐揚げやサラダなどが置いてある。
「どうぞ座ってください」
父さんと母さんが座って、テーブルを挟んで置いてある2脚の椅子を樹里たちに勧める。
僕は座るところがないので、母さんの横に立った。
「自分の部屋から椅子を持ってきたら」
二階に上がり、自分の椅子を取ってきて母さんの隣に座る。
「どういうことですか?」
僕が座るのを見て、父さんが口を開いた。
「それが……」
「お前には聞いてない。石野さんたちに聞いてるんだ」
説明しようとする僕を父さんが遮った。
「すみません。わたしが悪いんです……」
樹里が説明し始めた。父さんは腕を組んで聞いていた。母さんは固い表情をしている。
「本当にすみません」
樹里が説明し終えると、また頭を下げた。
「隆司とお付き合いしているっていうこと?」
母さんが固い表情のまま聞く。
「はい。卒業式までですけど」
樹里がはっきりと答えた。
「卒業式まで?」
父さんと母さんが首を捻った。
「はい。色々事情があって卒業式までなんです」
「そう?」
父さんも母さんも曖昧な返事をしている。
「いや、悪いのは俺です。勝手に勘違いして。本当にすみません。治療費はちゃんと払います。妹はなにも悪くありません」
幸雄さんも頭を下げる。
「たしかに殴った幸雄さんも悪いが、隆司も悪い。一人暮らしの女の子の家に行って、シャワーなんか浴びてたら誰でも勘違いするだろう」
父さんが苦虫を潰した顔をした。
「うん。そうだね。僕も軽率だったと思う」
本当に考えがなかったと思う。一人暮らしの女子の家にシャワーを浴びた男がいるのを親族が見たら誰でも勘違いするよな。
「陽子が高校生の時にそんな男が家にいたら、その男をただじゃおかなかったと思う」
妹大好きの父さんは僕の行動が許せないみたいだ。
「それはそうだろうけど、やっぱり親としては息子を怪我させられたのは許せないわ」
母さんが不機嫌そうに言う。
「本当にすみません」
樹里と幸雄さんが小さくなる。
ほら、父さんが陽子叔母さんの名前を出すから母さんの機嫌が悪くなったじゃないか。
母さんの顔を見て、父さんも気づいたのか「えっへん」と一つ咳払いをした。
「それはそうだな」
父さんも頷いた。
車がスーっと動き出す。
母さんに電話をしよとスマホを見た。
いきなり樹里とお兄さんを連れて行ったらびっくりするだろう。
さっき時間を見た時は、寝惚けていて気づかなかったが、母さんから何度も電話がかかってきていた。
しまった。
友だちと映画を観にいくと行って家を出たきりで、夕食をいらないという電話をするのを忘れていた。
もう7時半を回っている。うちの夕食の時間はとっくに過ぎている。
母さんと土曜日は休みの父さんはイライラしながら待っているだろう。
慌てて母さんに電話をかけた。
「何してるの!! ご飯を食べずに待ってるのよ」
母さんの不機嫌な声がする。
「ごめん。友だちと映画を見に行ったあと、ちょっと色々あって。今、友だちと友だちのお兄さんと一緒に帰るから」
車の中なので、声を押し殺して喋る。
「どうして、友だちとお兄さんが一緒に来るの?」
母さんが不思議そうに聞き返す。
「もう少しで着くから、ついてから話すよ」
車が家の近くに来たことに気づいて、「もしもし、ちょっとどいうこと?」と喋っている母さんに構わず、電話を切った。
「もうこの辺だと思うんだけど、車を停めるところある?」
お兄さんが聞いてきた。
家にも駐車スペースはあるが、父さんと母さんが共用で使っている軽自動車を止めたらもう停める余地はない。
家の近くにコインパーキングがあるのでそこに停めてもらうことにした。
コインパーキングから家までは3分ほどかかる。雨はすっかりあがっていた。
家のドアを開けると、玄関に母が待っていた。
「どうしたのその顔」
僕の顔を見るなり母さんの顔が曇った。
「すみません。わたしのせいです」
樹里が申し訳なさそうに後ろから声を出した。
「どなた?」
母さんが冷めた目で樹里を見る。
「わたし、石野樹里って言います。澤田君とはお付き合いさせてもらっています」
樹里が躊躇いがちに言った。
「石野……さん? お付き合い? どういうことかしら?」
母さんが納得いかないというような顔をする。
「うちのバカ兄が勘違いして、隆司君を殴ってしまって。ほら、こっちにきてちゃんと謝りなさいよ」
樹里は自分の後ろに立っているお兄さんの腕を引っ張って無理矢理前に出す。
「突然すみません。樹里の兄の幸雄です。ちょっと誤解をしてしまって……申し訳ありません」
幸雄さんが頭を下げた。
僕はお兄さんの名前を聞くのをすっかり忘れていた。
幸雄さんって言うんだ。
「誤解ってどういうことかしら?」
母さんの顔が険しくなる。
「玄関で何してるんだ。とにかく入ってもらいなさい」
奥から父さんが出てきて、母さんに言った。
「どうぞ」
母さんがお客さん用のスリッパを出して2人に勧める。
「お邪魔します」
樹里とお兄さんが恐縮しながらスリッパを履く。
「病院行かなくて大丈夫?」
母さんが二人の後ろから歩く僕の頬を撫でた。
「大丈夫だよ。まだ少し痛いけど、骨とか折れていないみたいだし」
安心させるように微笑んだ。
ダイニングに入ると、テーブルの上には鳥の唐揚げやサラダなどが置いてある。
「どうぞ座ってください」
父さんと母さんが座って、テーブルを挟んで置いてある2脚の椅子を樹里たちに勧める。
僕は座るところがないので、母さんの横に立った。
「自分の部屋から椅子を持ってきたら」
二階に上がり、自分の椅子を取ってきて母さんの隣に座る。
「どういうことですか?」
僕が座るのを見て、父さんが口を開いた。
「それが……」
「お前には聞いてない。石野さんたちに聞いてるんだ」
説明しようとする僕を父さんが遮った。
「すみません。わたしが悪いんです……」
樹里が説明し始めた。父さんは腕を組んで聞いていた。母さんは固い表情をしている。
「本当にすみません」
樹里が説明し終えると、また頭を下げた。
「隆司とお付き合いしているっていうこと?」
母さんが固い表情のまま聞く。
「はい。卒業式までですけど」
樹里がはっきりと答えた。
「卒業式まで?」
父さんと母さんが首を捻った。
「はい。色々事情があって卒業式までなんです」
「そう?」
父さんも母さんも曖昧な返事をしている。
「いや、悪いのは俺です。勝手に勘違いして。本当にすみません。治療費はちゃんと払います。妹はなにも悪くありません」
幸雄さんも頭を下げる。
「たしかに殴った幸雄さんも悪いが、隆司も悪い。一人暮らしの女の子の家に行って、シャワーなんか浴びてたら誰でも勘違いするだろう」
父さんが苦虫を潰した顔をした。
「うん。そうだね。僕も軽率だったと思う」
本当に考えがなかったと思う。一人暮らしの女子の家にシャワーを浴びた男がいるのを親族が見たら誰でも勘違いするよな。
「陽子が高校生の時にそんな男が家にいたら、その男をただじゃおかなかったと思う」
妹大好きの父さんは僕の行動が許せないみたいだ。
「それはそうだろうけど、やっぱり親としては息子を怪我させられたのは許せないわ」
母さんが不機嫌そうに言う。
「本当にすみません」
樹里と幸雄さんが小さくなる。
ほら、父さんが陽子叔母さんの名前を出すから母さんの機嫌が悪くなったじゃないか。
母さんの顔を見て、父さんも気づいたのか「えっへん」と一つ咳払いをした。
「それはそうだな」
父さんも頷いた。