どれぐらい寝たか分からないが、ドアが閉まるような音で目が覚めた。
何時だろうと思ってスマホを見ると、もう7時を回っている。
ガタガタと廊下の方で音がする。
樹里がシャワーを浴びて出てきたのかと思って、ドアを開けると、男が立っていた。
身長は180センチぐらいあるだろうか僕を見下ろしている。
「お前、誰だ」
男がギロッと僕を睨んだ。足がすくんで動けない。
「えっと……」
この男は誰だ?
「樹里はどこだ?」
男はブラックスーツを着ていて、スポーツ刈りをし、厳つい顔をしている。見た感じはやばい仕事の人に見える。
呼び捨てにするところをみると樹里とはかなり親しいみたいだ。
ひょっとして樹里はこの男の愛人なんだろうか?
「樹里はどこだって聞いてるんだ」
男が妙にドスの効いた声を出す。
「シャワー浴びています」
思わず本当のことを言ってしまった。
「なにい〜。シャワーだあああ。それにお前のそのカッコはなんだあー」
しまった!!
ガウンを着た僕に、シャワーときたら、誤解してくれって言ってるようなもんだ。
「許さーん」
男の強烈なストレートが顔面に飛んでくる。
僕は逃げることもできず、反射的に右を向いた。すさまじい衝撃が頬に走り、リビングの壁まで吹っ飛ぶ。
ガーン。
物凄い音が響く。壁にぶつかり、そのまま崩れ落ちた。
「どうしたの?」
樹里の驚いたような声が聞こえた。
ピンクのニットを着て、デニムを履いた樹里がドアのところに立っている。
「お前なにしてるんだ」
男が振り返り、樹里を見る。
「樹里、逃げろ」
僕は叫んだ。男は頭に血が上っている。樹里になにをするか分からない。なんとか樹里を助けようと思って、もがくが体が動かない。
「お兄ちゃん? 何しているの?」
樹里の言葉に唖然とした。この男が樹里のお兄さん? 樹里とは似ても似つかない厳つい顔をしているが……。
冷静に考えれば、この男はインターホンを鳴らさずに入ってきたということは、合鍵を持っているということだ。
合鍵を持っているのは家族だけだと樹里が言っていった。
突然、男が入ってきたので、パニックになってそのことを忘れていた。
「ちょっと邪魔よ。隆司、大丈夫? 殴られたの?」
樹里は自分のお兄さんを突き飛ばして、僕のそばに来ると心配そうに顔を見る。
「何をしてたんだ。シャワーまで浴びて」
怒りの治らないお兄さんは目を顰めて樹里をにらんだ。
「何よ。連絡もしないで。バッカじゃないの。お兄ちゃんが考えているようなことはしていないわよ。一緒に映画を見に行った帰りに雨に降られて、びしょ濡れになったからシャワーを浴びただけじゃない。なに想像しているの。いやらしい」
樹里は軽蔑したような目で自分のお兄さんを見ている。
「なにがいやらしいだ。大体お前のその格好はなんだ。ストリートガールみたいなメイクをして」
樹里はいつものギャルメイクをしている。
「顔を見せて」
樹里はお兄さんの言葉を完全に無視して僕のほうを向くと、頬を押さえている手を掴んで、その手を退けた。
「まあ、痣になってるじゃない。なんてことをするの」
樹里が非難するようにお兄さんを見た。
「それにその声は……」
お兄さんが無視されたことに腹を立ているのか大声になっている。
声? 声がどうかしたのかな? いつも通りのような気がするけど……。
“My brother,My brother……He of No, He of No”
突然、樹里が身体中から殺気を漂わせ、いつもよりさらに低い声で、英語を喋り出し、体ごと自分のお兄さんの方を向いた。
『He of No』ってどう言う意味だ? 僕にはまったく意味がわからない。
“really ?”
お兄さんは驚いたような顔になった。樹里が頷いている。
「大丈夫? 病院に行く?」
樹里がこちらを振り向く。
「大丈夫だよ」
殴れたところを何回か軽く押してみたが、骨とかは折れてる感じゃないし、歯も折れていない。
「こんなことして。隆司のお父さんとお母さんに謝りに行かないと」
樹里はお兄さんをにらみつけた。
「すまん。そうだな」
お兄さんが渋々という感じで頷く。
「そんなことしてもらわなくていいですよ」
いきなり樹里とお兄さんが家に押しかけてきたら、父さんも母さんもびっくりしてしまう。
「何言ってんの。こんな顔を見たらびっくりするわよ。どんな言い訳をするつもり。ちゃんと説明しないと、お父さんもお母さんも納得しないわ」
樹里はどこからか手鏡を取ってくると、僕の目の前に突き出した。
「げっ」
自分の顔を見て驚いた。顔が腫れて頬に拳型の青アザがくっきりと付いている。
さすがにこれはマズイ。
「服はもう乾いていると思うからそれを着て。靴はまだ乾いていないから、ビニール袋に入れて持って。わたしのスリッポンを貸すわ」
僕が着替え終わると、樹里とお兄さんは玄関で待っていた。
「お兄ちゃんが車で来ているから、車で行きましょう」
ぶかぶかの樹里のスリッポンを履いて樹里たちについて行く。
地下2階が駐車場になっており、高級車が並んでいる。
お兄さんは真っ赤なポルシェに近づくとドアを開けて乗り込んだ。
「隆司は後ろに乗って」
樹里はそう言って、助手席に乗る。僕が乗ってドアを閉めるとポルシェはゆっくりと動き始めた。
何時だろうと思ってスマホを見ると、もう7時を回っている。
ガタガタと廊下の方で音がする。
樹里がシャワーを浴びて出てきたのかと思って、ドアを開けると、男が立っていた。
身長は180センチぐらいあるだろうか僕を見下ろしている。
「お前、誰だ」
男がギロッと僕を睨んだ。足がすくんで動けない。
「えっと……」
この男は誰だ?
「樹里はどこだ?」
男はブラックスーツを着ていて、スポーツ刈りをし、厳つい顔をしている。見た感じはやばい仕事の人に見える。
呼び捨てにするところをみると樹里とはかなり親しいみたいだ。
ひょっとして樹里はこの男の愛人なんだろうか?
「樹里はどこだって聞いてるんだ」
男が妙にドスの効いた声を出す。
「シャワー浴びています」
思わず本当のことを言ってしまった。
「なにい〜。シャワーだあああ。それにお前のそのカッコはなんだあー」
しまった!!
ガウンを着た僕に、シャワーときたら、誤解してくれって言ってるようなもんだ。
「許さーん」
男の強烈なストレートが顔面に飛んでくる。
僕は逃げることもできず、反射的に右を向いた。すさまじい衝撃が頬に走り、リビングの壁まで吹っ飛ぶ。
ガーン。
物凄い音が響く。壁にぶつかり、そのまま崩れ落ちた。
「どうしたの?」
樹里の驚いたような声が聞こえた。
ピンクのニットを着て、デニムを履いた樹里がドアのところに立っている。
「お前なにしてるんだ」
男が振り返り、樹里を見る。
「樹里、逃げろ」
僕は叫んだ。男は頭に血が上っている。樹里になにをするか分からない。なんとか樹里を助けようと思って、もがくが体が動かない。
「お兄ちゃん? 何しているの?」
樹里の言葉に唖然とした。この男が樹里のお兄さん? 樹里とは似ても似つかない厳つい顔をしているが……。
冷静に考えれば、この男はインターホンを鳴らさずに入ってきたということは、合鍵を持っているということだ。
合鍵を持っているのは家族だけだと樹里が言っていった。
突然、男が入ってきたので、パニックになってそのことを忘れていた。
「ちょっと邪魔よ。隆司、大丈夫? 殴られたの?」
樹里は自分のお兄さんを突き飛ばして、僕のそばに来ると心配そうに顔を見る。
「何をしてたんだ。シャワーまで浴びて」
怒りの治らないお兄さんは目を顰めて樹里をにらんだ。
「何よ。連絡もしないで。バッカじゃないの。お兄ちゃんが考えているようなことはしていないわよ。一緒に映画を見に行った帰りに雨に降られて、びしょ濡れになったからシャワーを浴びただけじゃない。なに想像しているの。いやらしい」
樹里は軽蔑したような目で自分のお兄さんを見ている。
「なにがいやらしいだ。大体お前のその格好はなんだ。ストリートガールみたいなメイクをして」
樹里はいつものギャルメイクをしている。
「顔を見せて」
樹里はお兄さんの言葉を完全に無視して僕のほうを向くと、頬を押さえている手を掴んで、その手を退けた。
「まあ、痣になってるじゃない。なんてことをするの」
樹里が非難するようにお兄さんを見た。
「それにその声は……」
お兄さんが無視されたことに腹を立ているのか大声になっている。
声? 声がどうかしたのかな? いつも通りのような気がするけど……。
“My brother,My brother……He of No, He of No”
突然、樹里が身体中から殺気を漂わせ、いつもよりさらに低い声で、英語を喋り出し、体ごと自分のお兄さんの方を向いた。
『He of No』ってどう言う意味だ? 僕にはまったく意味がわからない。
“really ?”
お兄さんは驚いたような顔になった。樹里が頷いている。
「大丈夫? 病院に行く?」
樹里がこちらを振り向く。
「大丈夫だよ」
殴れたところを何回か軽く押してみたが、骨とかは折れてる感じゃないし、歯も折れていない。
「こんなことして。隆司のお父さんとお母さんに謝りに行かないと」
樹里はお兄さんをにらみつけた。
「すまん。そうだな」
お兄さんが渋々という感じで頷く。
「そんなことしてもらわなくていいですよ」
いきなり樹里とお兄さんが家に押しかけてきたら、父さんも母さんもびっくりしてしまう。
「何言ってんの。こんな顔を見たらびっくりするわよ。どんな言い訳をするつもり。ちゃんと説明しないと、お父さんもお母さんも納得しないわ」
樹里はどこからか手鏡を取ってくると、僕の目の前に突き出した。
「げっ」
自分の顔を見て驚いた。顔が腫れて頬に拳型の青アザがくっきりと付いている。
さすがにこれはマズイ。
「服はもう乾いていると思うからそれを着て。靴はまだ乾いていないから、ビニール袋に入れて持って。わたしのスリッポンを貸すわ」
僕が着替え終わると、樹里とお兄さんは玄関で待っていた。
「お兄ちゃんが車で来ているから、車で行きましょう」
ぶかぶかの樹里のスリッポンを履いて樹里たちについて行く。
地下2階が駐車場になっており、高級車が並んでいる。
お兄さんは真っ赤なポルシェに近づくとドアを開けて乗り込んだ。
「隆司は後ろに乗って」
樹里はそう言って、助手席に乗る。僕が乗ってドアを閉めるとポルシェはゆっくりと動き始めた。