2人とも必死に走ったが、マンションに着いた時は、服が絞れるぐらいびしょ濡れになっていた。
「すごかったね。それにしても樹里は足が速いね」
先についていた樹里に声をかける。
「遅いわね。風邪引くでしょう」
樹里が下を向き、怒ったように言う。
「ごめん」
また怒られた。
「こっちを見ないで。雨でメイクがほとんどとれているから」
慌てて樹里から目を逸らす。
横目で見ていると、下を向たまま、いつもは編んで一つに纏めて前に垂らしている髪を解き、顔を覆い隠すように前に垂らした。
「ブスな素顔を隆司に見られたくないから、こっちを見ないでよ。いつも詐欺メイクで誤魔化しているだけなんだから」
すごく真剣な感じで樹里が言う。
「わかった」
見たことはないが、樹里の素顔がそんなに悪いとは思えないが……。
でも、テレビで詐欺メイクをする女の人を見たことがあるが、とても同じ人だとは思えないほど変わるので、樹里の言うことが全く嘘だとは言い切れない。
樹里はホラー映画に出てくる女の幽霊みたいに顔を覆い隠した髪の毛から雨の雫を垂らして、操作盤に鍵を差し込んだ。
自動ドアが開いてエントランスに入っていく樹里の後ろをついて歩く。
初めて入るエントランスはホテルのロビーのようで、とても広くテーブルやソファーが置いてあり、シャンデリアまでかかっている。
左手にフロントがあり、黒いスーツを着たチイちゃんを連れてきた時と違う20代後半ぐらいのフロントウーマンが座っていて、樹里を見ると立ち上がった。
「お帰りなさいませ」
フロントウーマンは樹里と同じぐらいの背丈があり、何かスポーツをしているのかがっしりとした体格をしている。
「友達が一緒なんだけど」
樹里がフロントウーマンにだけ見えるように髪を少し上げた。
この人は樹里の素顔を知っているのか?
「ああ石野様ですか。凄い雨でしたね。では、お友達の方はこちらに注意書きがありますのでよく読んで、ご同意いただけるなら、お名前と石野様の部屋番号をお願いします」
僕にペンと用紙を差し出した。
注意書きには、他の階や部屋に決して立ち入らないこと、立ち入った場合は不法侵入として警察に通報されても異議がないこと、親族以外は泊まることは許されないことなど細かい注意がいっぱい書かれている。
「はい」
ペンを受け取り、出された用紙に名前と部屋番号を書いた。
「有難うございます」
フロントウーマンは用紙を受け取ると時計を見て時間を書き込んだ。
「行きましょう」
樹里が先に立って歩き出す。
フロントの奥にエレベーターがあり、エレベーターの『△▽』のボタンの下に鍵穴が付いている。樹里がその鍵穴に鍵を差し込むと、エレベーターが下りてきてドアが開く。
エレベーターに乗ると階数のボタンを押さなくても点灯しており、『閉』のボタンを押すと扉が閉まり、エレベーターが上がっていく。
「すごい設備だね」
僕は感嘆の声を漏らした。
「このマンションは設備とセキュリティはしっかりしているの。地下には、駐車場と警備員室と機会室があって、24時間警備員が常駐しているし、さっきの女の人もコンシェルジュ兼警備員さんなの」
だから、体格が良かったのか。
エレベーターのドアが開いて、樹里が先に下りる。右と左に小さな門とポーチが見えた。樹里は右のほうに行った。
「門があるんだ」
友達のマンションに遊びに行ったことがあるが、沢山のドアが廊下に沿って並んでいるという印象しかない。
「ここは1フロアに2部屋だけで、各部屋には門とポーチがあるの」
樹里は門の鍵穴に鍵を入れた。
「この門もセキュリティになってて、鍵を差し込まずに、こじ開けようとしたり、乗り越えようとしたりしたら、門のところにあるセンサーが働いて部屋のドアがロックされて、外からは開かないようになるの。警備員の部屋の警報が鳴ってすぐ飛んでくるから、遊びにきた時も勝手に開けようとしたらダメよ」
樹里が子供に言い聞かすように言う。もう来ることはないと思うけど。
「一つだけ合鍵があるけど、持てるのは家族だけで、入居の時に部屋に来る家族の写真を管理会社に出していて、入り口の警備員がその写真と顔をチェックされるの。だから、カレシを家族だと嘘をついて鍵を渡すのは無理なの」
別に合鍵はいりませんから。
樹里は門を開け、部屋のドアの鍵を突っ込むと開けた。
「入って」
僕は入るのを躊躇った。小学校の時は女子の家に遊びに行ったこともあったが、思春期に入ってからは一度もない。妙に緊張してしまって体が動かない。
「なにボーッとしているの早く入りなさいよ」
樹里がイライラしたように僕を見る。
「今まで女子の家に入ったことがないから、なんか緊張しちゃって体が動かない」
苦笑いをした。
「何バカなこと言ってるのよ。私まで緊張しちゃうじゃない。さっさと入りなさいよ」
樹里が眉間に皺を寄せて、僕の背中を押して無理矢理家の中に入れた。
「すごかったね。それにしても樹里は足が速いね」
先についていた樹里に声をかける。
「遅いわね。風邪引くでしょう」
樹里が下を向き、怒ったように言う。
「ごめん」
また怒られた。
「こっちを見ないで。雨でメイクがほとんどとれているから」
慌てて樹里から目を逸らす。
横目で見ていると、下を向たまま、いつもは編んで一つに纏めて前に垂らしている髪を解き、顔を覆い隠すように前に垂らした。
「ブスな素顔を隆司に見られたくないから、こっちを見ないでよ。いつも詐欺メイクで誤魔化しているだけなんだから」
すごく真剣な感じで樹里が言う。
「わかった」
見たことはないが、樹里の素顔がそんなに悪いとは思えないが……。
でも、テレビで詐欺メイクをする女の人を見たことがあるが、とても同じ人だとは思えないほど変わるので、樹里の言うことが全く嘘だとは言い切れない。
樹里はホラー映画に出てくる女の幽霊みたいに顔を覆い隠した髪の毛から雨の雫を垂らして、操作盤に鍵を差し込んだ。
自動ドアが開いてエントランスに入っていく樹里の後ろをついて歩く。
初めて入るエントランスはホテルのロビーのようで、とても広くテーブルやソファーが置いてあり、シャンデリアまでかかっている。
左手にフロントがあり、黒いスーツを着たチイちゃんを連れてきた時と違う20代後半ぐらいのフロントウーマンが座っていて、樹里を見ると立ち上がった。
「お帰りなさいませ」
フロントウーマンは樹里と同じぐらいの背丈があり、何かスポーツをしているのかがっしりとした体格をしている。
「友達が一緒なんだけど」
樹里がフロントウーマンにだけ見えるように髪を少し上げた。
この人は樹里の素顔を知っているのか?
「ああ石野様ですか。凄い雨でしたね。では、お友達の方はこちらに注意書きがありますのでよく読んで、ご同意いただけるなら、お名前と石野様の部屋番号をお願いします」
僕にペンと用紙を差し出した。
注意書きには、他の階や部屋に決して立ち入らないこと、立ち入った場合は不法侵入として警察に通報されても異議がないこと、親族以外は泊まることは許されないことなど細かい注意がいっぱい書かれている。
「はい」
ペンを受け取り、出された用紙に名前と部屋番号を書いた。
「有難うございます」
フロントウーマンは用紙を受け取ると時計を見て時間を書き込んだ。
「行きましょう」
樹里が先に立って歩き出す。
フロントの奥にエレベーターがあり、エレベーターの『△▽』のボタンの下に鍵穴が付いている。樹里がその鍵穴に鍵を差し込むと、エレベーターが下りてきてドアが開く。
エレベーターに乗ると階数のボタンを押さなくても点灯しており、『閉』のボタンを押すと扉が閉まり、エレベーターが上がっていく。
「すごい設備だね」
僕は感嘆の声を漏らした。
「このマンションは設備とセキュリティはしっかりしているの。地下には、駐車場と警備員室と機会室があって、24時間警備員が常駐しているし、さっきの女の人もコンシェルジュ兼警備員さんなの」
だから、体格が良かったのか。
エレベーターのドアが開いて、樹里が先に下りる。右と左に小さな門とポーチが見えた。樹里は右のほうに行った。
「門があるんだ」
友達のマンションに遊びに行ったことがあるが、沢山のドアが廊下に沿って並んでいるという印象しかない。
「ここは1フロアに2部屋だけで、各部屋には門とポーチがあるの」
樹里は門の鍵穴に鍵を入れた。
「この門もセキュリティになってて、鍵を差し込まずに、こじ開けようとしたり、乗り越えようとしたりしたら、門のところにあるセンサーが働いて部屋のドアがロックされて、外からは開かないようになるの。警備員の部屋の警報が鳴ってすぐ飛んでくるから、遊びにきた時も勝手に開けようとしたらダメよ」
樹里が子供に言い聞かすように言う。もう来ることはないと思うけど。
「一つだけ合鍵があるけど、持てるのは家族だけで、入居の時に部屋に来る家族の写真を管理会社に出していて、入り口の警備員がその写真と顔をチェックされるの。だから、カレシを家族だと嘘をついて鍵を渡すのは無理なの」
別に合鍵はいりませんから。
樹里は門を開け、部屋のドアの鍵を突っ込むと開けた。
「入って」
僕は入るのを躊躇った。小学校の時は女子の家に遊びに行ったこともあったが、思春期に入ってからは一度もない。妙に緊張してしまって体が動かない。
「なにボーッとしているの早く入りなさいよ」
樹里がイライラしたように僕を見る。
「今まで女子の家に入ったことがないから、なんか緊張しちゃって体が動かない」
苦笑いをした。
「何バカなこと言ってるのよ。私まで緊張しちゃうじゃない。さっさと入りなさいよ」
樹里が眉間に皺を寄せて、僕の背中を押して無理矢理家の中に入れた。