高校生同士の恋愛映画だ。
 バスケットボールの有望選手だった主人公の男子高校生が脳腫瘍に罹り、アメリカで手術することになる。成功確率は20パーセント。たとえ、成功してももうバスケットのような激しいスポーツはできなくなると宣告される。
 自暴自棄になる主人公だが、両親やクラブの仲間、そして1学年下の同じバスケット部員のカノジョに支えられ、手術へとアメリカに旅立っていく。
 残されたカノジョは主人公の意志を継ぐかのようにバスケットに打ち込み、3年生になった時、チームを高校総体決勝へと導いていく。
 高校総体決勝の日に客席でカノジョの活躍を見つめる車椅子姿の主人公。カノジョの活躍に涙を流しながら見つめる。
 最後は優勝してメダルを掛けられたカノジョと抱き合い、再会を喜ぶ主人公とカノジョの姿が大写しになって、エンドロールが出た。


 よくあるパターンの話だが、抱き合う2人の姿を見て僕は涙が出た。鼻をすする音があちらこちらから聞こえる。隣の女性も目をハンカチで抑えていた。
 横を見ると、樹里は平然としてスクリーンを見つめたまま、まだポップコーンを食べている。
 エンドロールが終わるとパッと明るくなり、樹里はゆっくりと立ち上がった。僕も立ち上がり、後ろからついていく。樹里から空になったジュースのコップとポップコーンの入れ物を受け取って、僕の分と一緒にゴミ箱に捨てた。

「よかったね」
 僕は樹里に話しかけた。樹里は横に並んだ僕の腕をとって、腕を組んでくる。
「よくあるわよね。この手の話。今はやりなのかな。よく泣けるわね」
 樹里が冷めた目で僕を見つめる。
「隣の女の人も泣いてたよ」
「そう」
 関心なさそうに言う。

「どうして、樹里は通路側に座ったの? 僕の隣は女の人だったから樹里が座った方が良かったんじゃない?」
 隣の女の人は僕が座ったとき、少し嫌そうな顔をしていたことを思い出す。
 そりゃあ男が隣に座られるより、女の人に座られるほうがいいに決まっている。

「隆司はあの女の人を知ってるの?」
「知らないよ」
 映画館でたまたま隣合った人が、知っている人だったなんていう確率は低い。
「じゃあ、あの女の人がわたしに痴漢をするかもしれないじゃない」
「そんなこと……」
 僕は絶句した。
「でも、隆司あの人のことを知らないのよね。あの人にそういう趣味がないと言い切れる?」
 たしかにそういう趣味の女性がいないとは言い切れない。
「それはそうだけど」
「それとも拳銃を突きつけられたり、ナイフを突きつけられるかもしれないじゃない」
「日本ではそんなことないよ」
 日本でそんな話は聞いたことがない。一体どこの国の話をしてるんだ。

「そうかしら? でも確率は0ではないわ。そうでしょう?」
「う〜ん」
 言っていることが極端すぎて
 どう答えていいかわからない。
「隆司はわたしがそんな目にあっても平気?」
「平気じゃないよ」
「わたしが危ない目にあいそうになったら、守ってくれるわよね」
「うん」
 いくら樹里が気が強くても女の子だ。喧嘩とかはからっきしダメだが、精一杯守る。
「隆司が間にいたら、わたしを襲えないでしょう。それに隆司が襲われたらわたしはその間にすぐ逃げれるし。だから、通路側に座ったの。わかる?」
 最後の言葉は少しバカにしたような調子だった。
「そういうことか」
 つまり、僕を盾にしたってわけだ。
 樹里が僕の顔を見てニヤっと笑った。
 行きに乗ったのと同じエレベーターに乗る。

 エレベーターに乗って、本来の目的を思い出した。
 今日はデートに来たのではない。
 樹里がアメリカに行く理由を聞きに来たんだ。
 そんなことを考えているうちに、エレベーターが1階に着いた。
僕と樹里は映画館の入っているビルから出た。