昼休みになると、樹里がいつものようにお弁当を持って教室にやって来た。
最近は、寒くなってきたので、教室でお弁当を食べている。
 今日のお弁当もなかなか美味しそうだ。
 チャーハンにシューマイ、回鍋肉、鳥の唐揚げなどが入っていた。
 明日からこのお弁当が食べられなくなると思うと、寂しくなる。
 食べ終わると、樹里を誘って屋上へと向かう。
 ドラマとかの影響かもしれないけど、なんとなく、2人きりで大事な話をするのは屋上がいいのではないかと思い込んでいる。

「寒いわね。なんの話? 早くして」
 さすがに12月中旬の屋上は気温が低いうえに風が吹いて寒い。
 躊躇ってなかなか何も言わない僕に樹里がイライラしたように言った。

「ごめん」
 僕は頭を下げた。
「いきなりなによ」
 樹里が驚いたような顔で僕を見る。
「樹里とはもう付き合えない」
 胸がチクチク痛む。こんなことを本当は言いたくない。
「ハアー、どういうこと?」
 樹里の顔が強張った。

「僕には許嫁がいるんだ」
 僕は顔を上げた。ギャルメイクをした樹里の顔がなんとも言えない顔になった。
 強いて言えば、戸惑ったような顔に見える。
 それはそうだろうな。急にこんなこと言われたらこういう反応になるよな。

「だから、もうわたしとは付き合えないって言うの?」
「うん。ごめん」
 もう一度頭を下げる。
「ダメ」
 樹里が腰に手を当て僕を睨んだ。
「えっ」
 樹里の答えに戸惑った。

「絶対別れない。隆司から告っといて、なんでわたしが振られないといけないの?」
 明らかに樹里の顔は怒っている。
「でも、あれは……」
 告ったというより告らされたっていうか。
「あれはなに?」
 樹里がギロッと睨む。
「なんでもないです」
 なんか余計なこと言うと怖そう。
「どうして最初に言わなかったのよ」
「それは、ウーンと……」
 まさか忘れていたとは言えない。

「で、その子はどんな子よ」
 樹里がなぜか横を向いた。その横顔はなぜか少し焦っているように見える。
「知らない。 会ったことがない」
「会ったことがない? どういうこと?」
 樹里がこっちを向いた。

「その子が来年の春に高校を卒業したら、僕と結婚しに日本に来る……らしい」
「らしい? らしいって何よ」
「色々事情があって、両親がそういうことになるだろうと言っていた」
 簡単に両親から聞いたことを話した。

「フーン。隆司はどうしてもその子と結婚しないといけないんだ」
 樹里は納得できない顔をしている。その反応は当然だ。僕も納得できてないんだから。
「たぶん」
「でも、それはわたしとは関係ないわ」
 それはそうだ。
「だけど、父さんと母さんが約束した以上守らないといけないと思うんだ」
 たとえ、僕の知らないところでされた約束であっても、約束は約束だ。守らないといけない。

「隆司はわたしが当番をちゃんとすれば、付き合うって約束したわよね」
「したよ」
「わたしは約束どおりちゃんと当番をしてるわよね。そうでしょ? 」
 それは認めます。僕は頷いた。

 樹里の当番が終わるまで図書室で本を読だり、勉強したりして待っているので、樹里があの1年生の子と仲良く当番をやっているところを見ている。
 もっとも僕が当番の時、樹里は「待っている間することがなくて暇だから先に帰るね」って言って、なんの躊躇いもなく帰っているけど。

「じゃあ、わたしとの約束も守らないといけないわよね。それとも、わたしみたいないい加減の子との約束なんか守らなくてもいいと思っているんだ」
 苦々しそうな顔をした。
「そんなことは思っていないよ。約束をした限り守らないといけないと思っている」
 樹里と付き合付き合っみて(もっとも、学校の登下校を一緒に帰るぐらいと昼ごはんを一緒に食べるぐらいだが)、樹里が噂のようないい加減な女子ではないことがわかった。
 ただ、口が悪くて、少し僕たちとは感覚が違うだけだと思う。