大学に無事合格し、期末テストも終わった。
 年末に入り、あとはクリスマスと正月だけという浮かれた気分で、僕はいた。
 いつものように一緒に登校した樹里と別れて、教室の入り口を開けると、紀夫が待ちかねたように手招きをしている。
「これ、合格祝い」
 席に着くと、紀夫が紙袋を差し出してきた。
「ありがとう」
 さすが唯一の親友だ。忘れずに合格祝いをくれるなんて。そういえば、紀夫の合格祝いは、まだしていなかったな。
 あとで何か考えよう。

 紙袋を開けて、さっそく中を見る。
 裸の女の写真が目に飛び込んできた。
 まさか……。
「もしかしたら、これ?」
「紀夫特選のエッチDVDだ」
「お前なあ。何考えてるんだ」
「何って。お前、これは俺の中ではベスト10に入るものばっかりだぞ。お前だから特別にやるって言ってるんじゃないか」
 確かにDVDが10枚入っている。ひょっとして大阪の大学へ行く前に自分のコレクションを全部処分しようと思っているんじゃないか。

「これを持って帰るのか?」
 親に見つかったらどうするんだ。こんなもの母さんが見たら卒倒するぞ。
「絶対、見て損はないぞ。俺が保障する。お前、真面目だからな。貸してやるって言っているのに、いらないなんていうから」
 そういえば、何度か貸してやると言われたことがある。
 だが、興味がないわけではないが、そんなに見たいとも思わなかったので断っていた。

「別にいらないけど」
 紀夫に紙袋を差し出しす。
「カノジョができたんだから、これを見て少しは勉強しろ」
 なんの勉強をしろって言うんだ。それに樹里と僕はそんな関係じゃないし、そもそも樹里に見たことと同じことをしようとしたら、たぶん殺される。
「やっぱり。いいよ」
「いいから。持って帰れ」
 どうしても紀夫は受け取らない。
「一応、もらっとくよ」
 持って帰るしかないが、どこに置こう? 母さんに見つかったら大騒ぎになるだろうな。

「ところで、石野と上手くいってるのか? 昼飯を一緒に食べてるぐらいだから大丈夫そうだけどな」
 樹里は僕と嫌がらせで付き合っているだけだから、上手くいっているかどうか分からない。
 樹里が僕に飽きない限りこの関係は続くだろう。今のところは飽きられていないみたいだけど。
「まあそうかな」
 曖昧に答える。
「そうか。これでしっかり勉強してお互い頑張ろうぜ」
 紀夫が親指を立てた。
 これを見てなにを頑張るんだ? こんなもので勉強したことを実践したら絶対にカノジョに嫌われるぞ。
「ハアー」
 僕は盛大なため息をついた。
 まあそれでも合格祝いをしてやろうと思ってくれるだけ有難い。その気持ちだけでも嬉しかった。

 終礼が終わって、帰る用意をしていたら、いきなりクラスの女子3、4人が僕を取り囲んだ。
「なに?」
 突然のことでパニックになりそうになる。
 何かした?
 クラスの女子と用事がある時以外はほとんど喋ったことがない。
 だからこんなふうに囲まれるような覚えはまったくない。
 紀夫が心配そうな目で振り返って見ている。

「澤田君、石野さんと付き合っているんでしょう」
 クラスの女子では一番可愛いと言われている渡辺さんが口を開いた。
「……」
 元々、僕は女子と喋るのはすごく苦手だ。
 樹里の時みたいに用事があって喋るならまだ喋れるが、こんな風にわけもわからず囲まれたりしたら、どうしていいか分からなくなってしまう。

「付き合ってないの?」
 渡辺さんが詰問口調になる。
 渡辺さんはストレートの髪を肩先で揃えていて、大きな目をした西洋人形みたいな可愛い顔をしているが、性格はかなりキツイ。
 だから、男子受けは非常に悪い。

「えっと、あのー」
 渡辺さんのキツイ調子に完全にテンパってしまい言葉がうまく出てこない。
「付き合っているの? 付き合っていないの? どっちなの」
 渡辺さんの眦が上がる。
「そうよ。はっきりしなさいよ」
 渡辺さんの取り巻きの女子たちも口々に責めるように言う。
 樹里といい渡辺さんたちといい、うちの学校の女子は気が強い。
 思わず、下を向いてしまう。
 女子たちに囲まれて口々に責められ、緊張と怖さで体が固まってしまい、もう泣きそうだ。

「おい……」
 僕のことをよく知っている紀夫が堪りかねたような声を出したのと同時だった。
「わたしのカレシに何か用なの?」
 突然、樹里の低音が聞こえてきた。顔を上げると、いつのまにか樹里が小柄な渡辺さんの後ろに立っていた。渡辺さんを押し退けるようにして僕のそばにくる。