朝、樹里にモーニングコールをかけ、家まで迎えに行き、一緒に登校して、昼には樹里が作ってくれたお弁当を食べ、放課後は樹里の家まで一緒に下校するという付き合いが始まった。
きっと、樹里はすぐに飽きて、別れようと言いだすだろうと思っていたが、一向に別れようとは言わない。
朝は約束どおり、僕が新聞を読んで気になった記事の話をして、それについてどう考えるのかと樹里が突っ込んでくるので、それについて自分の意見を言う。
昼はお弁当食べながら、演劇やアニメを観るのが好きらしい樹里が話す『セビリアの理髪師』や『フィガロの結婚』などの演劇の話やアニメの話をを聞く。
帰り道では、僕の家のことを樹里が聞きたがるので、母さんが少し天然系かなと思う話や父さんが公務員で真面目だという話をしたりする。
対照的に樹里は、あまり自分の家の話をしたがらない。
やっと聞き出せたのは、3つ歳上のお兄さんがいることと、お父さんが何かの会社をしているということ、お母さんが料理をするのが好きだということぐらいだ。
両親がどこに住んでいるとかは決して教えてくれない。
どうしてそんなに自分の家の話をするのがいやなんだろう。
そんな風に樹里との付き合いを続けていると、あっという間に1ヶ月が経ち、僕の入試の日がきた。
入試当日もいつもと変わらず5時に目を覚して、6時になると、樹里にモーニングコールをする。
何度か呼び出し音が鳴る。
ガチャ。
「おはよう」
しばらく応答がない。また調子が良くないのだろうか。
“……Good morning……Who’s calling?”
と、聞こえた気がするが、なんだ今のは?
いつもの樹里の低音とは違う女性らしい少し高い声で流暢な英語だ。
英語は大の苦手だから、流暢すぎるうえに声が少しくぐもっているような感じだったので、聞こえたとおりかどうかもはっきり分からないし、なんと答えていいかも分からない。
かけ間違えたか?
毎日かけている樹里の番号にかけているんだから、間違うはずがないんだけど。
「もしもし、樹里?」
不安になって相手を確認した。
「……うん。隆司?」
しばらくして、いつもの樹里の低い声が聞こえた。
「誰かいるの? いま、英語が聞こえたけど……」
たしか、樹里は一人暮らしだと言っていたが……。ということは今の英語は、樹里?
「誰もいないわ。寝ぼけてテレビのスイッチを入れちゃったのよ。その音が聞こえたのかな。なんか英語番組やってるみたいなの」
なんだテレビか。
たしかに樹里の低い声とは違う高い可愛い声だった。樹里があんな声を出せるとは思えない。
「今日は迎えに行けないけど大丈夫?」
今日は入試の日だから当然、樹里を迎えに行くことはできない。
「…うん。分かってる。それよりいいの? 大事な入試の日なのにわたしにモーニングコールなんかしてきて。今日はかかってこないと思ってたのに」
樹里が眠そうな声で答える。
「毎日モーニングコールをするという約束だからね。僕が入試でも関係ないよ」
入試だろうが用事があろうがモーニングコールはできるのだから、約束した以上はしなければいけない。
「そう。でも、入試はしっかり頑張ってよ。受験に落ちたのをモーニングコールをしたせいにされたらかなわないから」
落ちたことを人のせいにしようなんて思ったことはない。落ちたらそれが自分の実力だ。
「そんなこと言わないよ。それより、遅刻したらダメだよ」
迎えに行けないので、また遅刻するのではないかと不安になる。
「遅刻なんかしないわよ!! 人の心配より自分の入試のことを考えなさいよ!! スベったら許さないからね」
ブチッと電話が切れた。眠そうな声だったけど、本当に大丈夫だろうか。また、寝ないだろうか。
高校入試ではまったく緊張しなかったが、今回はちょっと緊張している。
朝、家を出るときに、母さんが緊張して顔を引きつらせている僕を見て、笑い出した。
「緊張している顔かわいい。ずっとそんな顔だったらきっとカノジョができたろうにね」
いくら親でも緊張している息子を見て、笑うというのは酷いんじゃないの。
「そんなに緊張してたら、実力を出せないぞ。深呼吸でもして、もっとリラックスしないと」
父さんの言っていることは分かるが、いくら深呼吸しても全然リラックスしない。
家から大学まで1時間ぐらいかかるので、9時からの試験に間に合わすために、7時に家を出た。
緊張したままの固い表情で歩いていると、メールの着信音が鳴った。
駅に着いて、メールをチェックすると、樹里からだ。
『入試頑張りなさい。合格したら、豪華弁当を作って、お祝いしてあげる。不合格だったら、気合いを入れるためにわたしのグーパンチ🥊を食べさせてあげるからね』
と、書いてある。
これ一応励ましのメールなのかな? それとも脅しメール? きっと樹里なりの励ましなんだろうなと思った。
メールを読んでいると、緊張がなんとなくほぐれてくるような気がして、試験に落ち着いて臨めそうな気がしてくる。
きっと、樹里はすぐに飽きて、別れようと言いだすだろうと思っていたが、一向に別れようとは言わない。
朝は約束どおり、僕が新聞を読んで気になった記事の話をして、それについてどう考えるのかと樹里が突っ込んでくるので、それについて自分の意見を言う。
昼はお弁当食べながら、演劇やアニメを観るのが好きらしい樹里が話す『セビリアの理髪師』や『フィガロの結婚』などの演劇の話やアニメの話をを聞く。
帰り道では、僕の家のことを樹里が聞きたがるので、母さんが少し天然系かなと思う話や父さんが公務員で真面目だという話をしたりする。
対照的に樹里は、あまり自分の家の話をしたがらない。
やっと聞き出せたのは、3つ歳上のお兄さんがいることと、お父さんが何かの会社をしているということ、お母さんが料理をするのが好きだということぐらいだ。
両親がどこに住んでいるとかは決して教えてくれない。
どうしてそんなに自分の家の話をするのがいやなんだろう。
そんな風に樹里との付き合いを続けていると、あっという間に1ヶ月が経ち、僕の入試の日がきた。
入試当日もいつもと変わらず5時に目を覚して、6時になると、樹里にモーニングコールをする。
何度か呼び出し音が鳴る。
ガチャ。
「おはよう」
しばらく応答がない。また調子が良くないのだろうか。
“……Good morning……Who’s calling?”
と、聞こえた気がするが、なんだ今のは?
いつもの樹里の低音とは違う女性らしい少し高い声で流暢な英語だ。
英語は大の苦手だから、流暢すぎるうえに声が少しくぐもっているような感じだったので、聞こえたとおりかどうかもはっきり分からないし、なんと答えていいかも分からない。
かけ間違えたか?
毎日かけている樹里の番号にかけているんだから、間違うはずがないんだけど。
「もしもし、樹里?」
不安になって相手を確認した。
「……うん。隆司?」
しばらくして、いつもの樹里の低い声が聞こえた。
「誰かいるの? いま、英語が聞こえたけど……」
たしか、樹里は一人暮らしだと言っていたが……。ということは今の英語は、樹里?
「誰もいないわ。寝ぼけてテレビのスイッチを入れちゃったのよ。その音が聞こえたのかな。なんか英語番組やってるみたいなの」
なんだテレビか。
たしかに樹里の低い声とは違う高い可愛い声だった。樹里があんな声を出せるとは思えない。
「今日は迎えに行けないけど大丈夫?」
今日は入試の日だから当然、樹里を迎えに行くことはできない。
「…うん。分かってる。それよりいいの? 大事な入試の日なのにわたしにモーニングコールなんかしてきて。今日はかかってこないと思ってたのに」
樹里が眠そうな声で答える。
「毎日モーニングコールをするという約束だからね。僕が入試でも関係ないよ」
入試だろうが用事があろうがモーニングコールはできるのだから、約束した以上はしなければいけない。
「そう。でも、入試はしっかり頑張ってよ。受験に落ちたのをモーニングコールをしたせいにされたらかなわないから」
落ちたことを人のせいにしようなんて思ったことはない。落ちたらそれが自分の実力だ。
「そんなこと言わないよ。それより、遅刻したらダメだよ」
迎えに行けないので、また遅刻するのではないかと不安になる。
「遅刻なんかしないわよ!! 人の心配より自分の入試のことを考えなさいよ!! スベったら許さないからね」
ブチッと電話が切れた。眠そうな声だったけど、本当に大丈夫だろうか。また、寝ないだろうか。
高校入試ではまったく緊張しなかったが、今回はちょっと緊張している。
朝、家を出るときに、母さんが緊張して顔を引きつらせている僕を見て、笑い出した。
「緊張している顔かわいい。ずっとそんな顔だったらきっとカノジョができたろうにね」
いくら親でも緊張している息子を見て、笑うというのは酷いんじゃないの。
「そんなに緊張してたら、実力を出せないぞ。深呼吸でもして、もっとリラックスしないと」
父さんの言っていることは分かるが、いくら深呼吸しても全然リラックスしない。
家から大学まで1時間ぐらいかかるので、9時からの試験に間に合わすために、7時に家を出た。
緊張したままの固い表情で歩いていると、メールの着信音が鳴った。
駅に着いて、メールをチェックすると、樹里からだ。
『入試頑張りなさい。合格したら、豪華弁当を作って、お祝いしてあげる。不合格だったら、気合いを入れるためにわたしのグーパンチ🥊を食べさせてあげるからね』
と、書いてある。
これ一応励ましのメールなのかな? それとも脅しメール? きっと樹里なりの励ましなんだろうなと思った。
メールを読んでいると、緊張がなんとなくほぐれてくるような気がして、試験に落ち着いて臨めそうな気がしてくる。