「行こう」
樹里はいきなり手を握り、引っ張るように歩き出す。
「体調は良くなったの?」
電話の感じではかなり調子が悪そうだったが、今はさほどでもないようだ。
「薬が効いてきたみたい。さっきより調子はいいわ」
そう言うわりには僕の方に体を少し凭れさせてくる。樹里のほうが背が高いので結構支えるのに力がいる。
まだ、本調子ではないのだろうか。
「そう。良かった。安心したよ」
「毎日じゃないけど、朝は起きれなくなることがあるのよね。薬を飲んでも効きが悪い時もあるし」
「大変だね」
歩く速度も僕と同じぐらいなので、今のところは大丈夫そうだ。
「ところで、私をいつまで車道側を歩かせる気なの? 自分が車道側を歩いてか弱いレディを守ろうとは思わないの?」
車道側を歩いている樹里が文句を言う。とてもか弱いレディに見えないけど。
「ああ、ごめん」
慌てて場所を入れ替わった。
また、怒られた。
時計を見るとまだ8時10分だ。ここから学校まで歩いて12、3分ぐらいだからゆっくり歩いても間に合う。
「隆司の家は朝はテレビを見るの?」
家の食堂にはテレビが置いてあるから食事の時は必ずついている。
「見てるけど……」
「私も朝はテレビを点けて、いつもは情報番組を見てるんだけど、今日、たまたま点けたらニュースをやっていたのよ」
うちも父さんが見るからだいたい朝はニュース番組がついている。
「それで?」
樹里が何を言おうとしているのか分からない。
「もうチャンネルを変えるのも面倒くさかったから、そのまま見てたんだけどさ。全然言っていることがわからないのよ」
「そういうことよくあるよ。見ていて用語とかわからなくて父さんにどういうことって聞いたりするけどね」
学校で習っていることはわかるが、政治とか経済のニュースを聞いていてもなんのことかさっぱりわからないなんていうことはよくある。
「そうだよね。でも、私ってバカだからさ。それが沢山あるのよ。テストの成績も赤点ギリギリばっかりだし。カノジョがあんまりバカだったら恥ずかしいでしょう?」
そうだな。やっぱり恥ずかしいかな。
「そうだね」
「隆司の家は新聞を取っている?」
今度は新聞の話?
「取っているよ」
朝、母さんが郵便受けから取ってきて、父さんがいつも読んでいる。
「隆司も読んでいるの?」
「時々ね」
父さんが読んだ後、食卓においてあるのをたまには読むことはある。
「新聞でも読んだら、ちょっとは分かるようにになるかもしれないけど、私は新聞を取っていないのよ。毎朝、新聞を読んで、私に政治とか経済とか社会面とかで、隆司が気になった記事のことを話してよ」
「ええーっ」
小論文の書き方の練習だけでも大変なのにその上、毎朝、新聞を読んで話をしようと思ったら、その記事の内容をある程度自分で理解しないとできない。
そんな余裕は今はない。
「可愛いカノジョが頼んでいるんだから、それぐらいしてもいいんじゃない? 朝早く起きてるから暇でしょう? 新聞を読むぐらいそんなに何時間もかからないでしょう?」
樹里が目を細める。きつめの美人顔が目を細めるとなかなか迫力がある。
「わかったよ。僕の興味がある記事でいいだよね」
樹里の迫力に負けた。
「それでいいわ」
樹里がニコッと微笑む。笑った顔は本当に美人だと思うが、口は悪いし、性格も悪い。
これからも付き合わないといけないと考えると気が重くなる。
二人で手を繋いだまま学校のすぐ近くまで来ると、心なしか登校してくる生徒たちが驚きの目で見ているような……。
そりゃあ樹里と僕じゃ釣り合いが取れないから当然といえば当然だが。
気恥ずかしくなり手を離そうとしたが、樹里が離さない。
生徒指導の先生がいつものように校門の前に立っていた。
「石野、珍しいな。今日は余裕じゃないか」
「当たり前だよ。カレシが迎えにきてくれたんだもん」
樹里が自慢げに言う。
「カレシ? 」
生活指導の先生が訝しげに僕の顔を見る。
「澤田。お前、何か石野に弱みでも握られているのか?」
「いえ、別に」
首を横に振った。
「先生、どういう意味よ!!」
樹里が今にも噛みつきそうな顔をした。
「澤田、相談ならいつでも乗るぞ」
先生はニヤニヤしながら僕に向かって言う。
「はい。先生。その時はよろしくお願いします」
頭を下げると、今にも飛びかかりかねない顔をしている樹里を引っ張るようにして校門を離れた。
「ちょっと先生。まるで私が隆司を脅かしているみたいじゃない。ちゃんと付き合ってるんだからね」
いまだ怒りの治らない樹里は先生に向かって怒鳴っている。
「ちょっと落ち着きなよ」
僕は樹里をなだめるように言った。
「ホント腹たつ。隆司も何よ。あの言い方。私が本当に脅してるみたいじゃない」
似たようなものだけど。
「ハハハハハ」
僕は乾いた笑いをする。
「明日も迎えにくるのよ。忘れたらひどいわよ」
樹里が僕をじっと見つめる。目が怖いんですけど。
「大丈夫。忘れないよ」
忘れたらただで済みそうもない。
樹里はいきなり手を握り、引っ張るように歩き出す。
「体調は良くなったの?」
電話の感じではかなり調子が悪そうだったが、今はさほどでもないようだ。
「薬が効いてきたみたい。さっきより調子はいいわ」
そう言うわりには僕の方に体を少し凭れさせてくる。樹里のほうが背が高いので結構支えるのに力がいる。
まだ、本調子ではないのだろうか。
「そう。良かった。安心したよ」
「毎日じゃないけど、朝は起きれなくなることがあるのよね。薬を飲んでも効きが悪い時もあるし」
「大変だね」
歩く速度も僕と同じぐらいなので、今のところは大丈夫そうだ。
「ところで、私をいつまで車道側を歩かせる気なの? 自分が車道側を歩いてか弱いレディを守ろうとは思わないの?」
車道側を歩いている樹里が文句を言う。とてもか弱いレディに見えないけど。
「ああ、ごめん」
慌てて場所を入れ替わった。
また、怒られた。
時計を見るとまだ8時10分だ。ここから学校まで歩いて12、3分ぐらいだからゆっくり歩いても間に合う。
「隆司の家は朝はテレビを見るの?」
家の食堂にはテレビが置いてあるから食事の時は必ずついている。
「見てるけど……」
「私も朝はテレビを点けて、いつもは情報番組を見てるんだけど、今日、たまたま点けたらニュースをやっていたのよ」
うちも父さんが見るからだいたい朝はニュース番組がついている。
「それで?」
樹里が何を言おうとしているのか分からない。
「もうチャンネルを変えるのも面倒くさかったから、そのまま見てたんだけどさ。全然言っていることがわからないのよ」
「そういうことよくあるよ。見ていて用語とかわからなくて父さんにどういうことって聞いたりするけどね」
学校で習っていることはわかるが、政治とか経済のニュースを聞いていてもなんのことかさっぱりわからないなんていうことはよくある。
「そうだよね。でも、私ってバカだからさ。それが沢山あるのよ。テストの成績も赤点ギリギリばっかりだし。カノジョがあんまりバカだったら恥ずかしいでしょう?」
そうだな。やっぱり恥ずかしいかな。
「そうだね」
「隆司の家は新聞を取っている?」
今度は新聞の話?
「取っているよ」
朝、母さんが郵便受けから取ってきて、父さんがいつも読んでいる。
「隆司も読んでいるの?」
「時々ね」
父さんが読んだ後、食卓においてあるのをたまには読むことはある。
「新聞でも読んだら、ちょっとは分かるようにになるかもしれないけど、私は新聞を取っていないのよ。毎朝、新聞を読んで、私に政治とか経済とか社会面とかで、隆司が気になった記事のことを話してよ」
「ええーっ」
小論文の書き方の練習だけでも大変なのにその上、毎朝、新聞を読んで話をしようと思ったら、その記事の内容をある程度自分で理解しないとできない。
そんな余裕は今はない。
「可愛いカノジョが頼んでいるんだから、それぐらいしてもいいんじゃない? 朝早く起きてるから暇でしょう? 新聞を読むぐらいそんなに何時間もかからないでしょう?」
樹里が目を細める。きつめの美人顔が目を細めるとなかなか迫力がある。
「わかったよ。僕の興味がある記事でいいだよね」
樹里の迫力に負けた。
「それでいいわ」
樹里がニコッと微笑む。笑った顔は本当に美人だと思うが、口は悪いし、性格も悪い。
これからも付き合わないといけないと考えると気が重くなる。
二人で手を繋いだまま学校のすぐ近くまで来ると、心なしか登校してくる生徒たちが驚きの目で見ているような……。
そりゃあ樹里と僕じゃ釣り合いが取れないから当然といえば当然だが。
気恥ずかしくなり手を離そうとしたが、樹里が離さない。
生徒指導の先生がいつものように校門の前に立っていた。
「石野、珍しいな。今日は余裕じゃないか」
「当たり前だよ。カレシが迎えにきてくれたんだもん」
樹里が自慢げに言う。
「カレシ? 」
生活指導の先生が訝しげに僕の顔を見る。
「澤田。お前、何か石野に弱みでも握られているのか?」
「いえ、別に」
首を横に振った。
「先生、どういう意味よ!!」
樹里が今にも噛みつきそうな顔をした。
「澤田、相談ならいつでも乗るぞ」
先生はニヤニヤしながら僕に向かって言う。
「はい。先生。その時はよろしくお願いします」
頭を下げると、今にも飛びかかりかねない顔をしている樹里を引っ張るようにして校門を離れた。
「ちょっと先生。まるで私が隆司を脅かしているみたいじゃない。ちゃんと付き合ってるんだからね」
いまだ怒りの治らない樹里は先生に向かって怒鳴っている。
「ちょっと落ち着きなよ」
僕は樹里をなだめるように言った。
「ホント腹たつ。隆司も何よ。あの言い方。私が本当に脅してるみたいじゃない」
似たようなものだけど。
「ハハハハハ」
僕は乾いた笑いをする。
「明日も迎えにくるのよ。忘れたらひどいわよ」
樹里が僕をじっと見つめる。目が怖いんですけど。
「大丈夫。忘れないよ」
忘れたらただで済みそうもない。