6時にセットしておいた目覚まし時計のアラームが鳴ったので、樹里へ電話をかける。
何度か呼び出し音が鳴って、樹里のいつもより気だるそうな声が聞こえてきた。
「はい」
「起きた?」
寝ボケたようにも聞こえる声にちゃんと起きているか確認した。
「うん……なんとか」
明らかに調子が悪そうな声をしている。どうやら低血圧というのは嘘ではなさそうだ。
「大丈夫? 相当具合悪そうだけど。今からそっちに行って、お医者さんに連れて行こうか? 救急のあるところなら見てくれると思うけど……」
調子の悪そうな声に心配になる。
「大丈夫。薬を飲んだからもう少しすれば、良くなると思うわ。それより絶対に迎えにきなさいよ」
調子が悪そうなわりには命令口調だ。
「わかった」
本当に大丈夫なのか心配だったが、本人が大丈夫だといっているのだから、大丈夫だろう。行った時にあまりにも調子が悪そうだったら休んだらどうかと言ってみよう。
電話を切ると勉強を再開した。やはり朝の方が調子がいい。
学校推薦の入試まで1カ月を切っている。
国語の先生に頼んで、出してもらった小論文の問題は3日かけて練り上げて答案を作成して、新しい問題と引き換えに渡す。
先生は書いた答案を読んでくれ、添削をしてくれる。
今が正念場だ。小論文と面接だけだとはいえ気は抜けない。
もちろん学校推薦で落ちる可能性もあるので、一般入試用の勉強もしないといけないが、なんとか学校推薦で合格したい。
樹里に振り回されてばっかりはいられない。
母さんがご飯ができたと呼びにくるまで小論文に取り組んだ。
「なんだ。今日は早いんだな」
トイレから出てきた父さんが学校へ行くために玄関で靴を履いている僕を見て言った。
「あら、もう出かけるの」
母さんも玄関に出てきて、背中に声をかけてくる。
いつもより10分ほど早い。
「うん。学校でちょっとしたいことがあるんだ」
樹里の様子からすると、どれぐらい待たされるか分からない。いくら無遅刻無欠席が途切れたとはいえ、遅刻をするのは嫌なのでなるべく早めに行った方がいいと思った。
「そう。これから毎日なの?」
「うん。たぶんそうなると思う」
樹里が嫌がらせをすることに飽きて振られるまでは続けないといけないだろう。
約束だから。
「そう。だったら、これからもう少し早くご飯の用意をした方がいいわね」
「うん。ごめんね」
「何も謝ることはないわよ。10分ぐらいどうってことないわ」
母さんは笑った。
母さんに嘘をついていることは心苦しいが仕方ない。
「行ってきます」
家を出ると、樹里のマンションに向かった。
マンションに着くと、部屋の番号を押し、呼び出しのボタンを押す。
なかなか返事がない。
部屋番号を間違えたのかな。
ちゃんと昨日見た番号を押したつもりだが、見間違えたということもありうる。
あるいは樹里が部屋の中で倒れているのではないかと不安になってくる。
なかなか応答がないので、もう一度呼び出しを押そうかそれとも携帯に電話しようか悩んでいると、「はい」と言う声がやっと聞こえてきた。
「澤田だけど」
「見えてるわ。もうちょっと待ってて」
たぶん部屋の中のモニターに僕の姿が映っているんだろう。
出でくるのを待つしかなかった。
操作盤から少し離れて所在なげに立っていると、OL風の人や学生風の人が次々出てくる。
女性専用マンションだから当たり前だが、出てくる人はみんな女性で、ほとんどの人がチイちゃんの時と同じように胡散臭げな目で僕を見つめて歩き去って行く。
だんだん居たたまれなくなってきた。
外に出て待とうかなと思った時にようやく樹里の姿が見えた。
何度か呼び出し音が鳴って、樹里のいつもより気だるそうな声が聞こえてきた。
「はい」
「起きた?」
寝ボケたようにも聞こえる声にちゃんと起きているか確認した。
「うん……なんとか」
明らかに調子が悪そうな声をしている。どうやら低血圧というのは嘘ではなさそうだ。
「大丈夫? 相当具合悪そうだけど。今からそっちに行って、お医者さんに連れて行こうか? 救急のあるところなら見てくれると思うけど……」
調子の悪そうな声に心配になる。
「大丈夫。薬を飲んだからもう少しすれば、良くなると思うわ。それより絶対に迎えにきなさいよ」
調子が悪そうなわりには命令口調だ。
「わかった」
本当に大丈夫なのか心配だったが、本人が大丈夫だといっているのだから、大丈夫だろう。行った時にあまりにも調子が悪そうだったら休んだらどうかと言ってみよう。
電話を切ると勉強を再開した。やはり朝の方が調子がいい。
学校推薦の入試まで1カ月を切っている。
国語の先生に頼んで、出してもらった小論文の問題は3日かけて練り上げて答案を作成して、新しい問題と引き換えに渡す。
先生は書いた答案を読んでくれ、添削をしてくれる。
今が正念場だ。小論文と面接だけだとはいえ気は抜けない。
もちろん学校推薦で落ちる可能性もあるので、一般入試用の勉強もしないといけないが、なんとか学校推薦で合格したい。
樹里に振り回されてばっかりはいられない。
母さんがご飯ができたと呼びにくるまで小論文に取り組んだ。
「なんだ。今日は早いんだな」
トイレから出てきた父さんが学校へ行くために玄関で靴を履いている僕を見て言った。
「あら、もう出かけるの」
母さんも玄関に出てきて、背中に声をかけてくる。
いつもより10分ほど早い。
「うん。学校でちょっとしたいことがあるんだ」
樹里の様子からすると、どれぐらい待たされるか分からない。いくら無遅刻無欠席が途切れたとはいえ、遅刻をするのは嫌なのでなるべく早めに行った方がいいと思った。
「そう。これから毎日なの?」
「うん。たぶんそうなると思う」
樹里が嫌がらせをすることに飽きて振られるまでは続けないといけないだろう。
約束だから。
「そう。だったら、これからもう少し早くご飯の用意をした方がいいわね」
「うん。ごめんね」
「何も謝ることはないわよ。10分ぐらいどうってことないわ」
母さんは笑った。
母さんに嘘をついていることは心苦しいが仕方ない。
「行ってきます」
家を出ると、樹里のマンションに向かった。
マンションに着くと、部屋の番号を押し、呼び出しのボタンを押す。
なかなか返事がない。
部屋番号を間違えたのかな。
ちゃんと昨日見た番号を押したつもりだが、見間違えたということもありうる。
あるいは樹里が部屋の中で倒れているのではないかと不安になってくる。
なかなか応答がないので、もう一度呼び出しを押そうかそれとも携帯に電話しようか悩んでいると、「はい」と言う声がやっと聞こえてきた。
「澤田だけど」
「見えてるわ。もうちょっと待ってて」
たぶん部屋の中のモニターに僕の姿が映っているんだろう。
出でくるのを待つしかなかった。
操作盤から少し離れて所在なげに立っていると、OL風の人や学生風の人が次々出てくる。
女性専用マンションだから当たり前だが、出てくる人はみんな女性で、ほとんどの人がチイちゃんの時と同じように胡散臭げな目で僕を見つめて歩き去って行く。
だんだん居たたまれなくなってきた。
外に出て待とうかなと思った時にようやく樹里の姿が見えた。