「澤田。珍しいな。誰かに用か?」
D組の顔見知りが声をかけてきた。
「ああ。石野さんいるかな?」
なにも悪いことはしていないが、なんとなくオドオドしてしまう。
「石野? ああ、あそこにいるよ」
窓側の一番後ろの席を指差す。
やっぱりいるのか。僕の願いは無残に打ち砕かれた。
指された方を見ると、石野さんとおぼしき女子の周りを3人の女子が取り囲んで何か話しをしている。
友だちがいないと聞いていたが、意外と人気者じゃないかと思って、少し気軽になり石野さんの方へ近づいていった。
「石野さん、私と和也が付き合っていること知っているわよね。それなのになんで和也にちょっかいを出すわけ?」
石野さんを取り囲んでいるうちのショートヘアのちょっと気の強そうな子の声が聞こえてきた。
お取り込み中のようなので、僕は少し離れたところで大人しく順番を待つことにする。
「あなたが誰と付き合ってるかなんて知らないし、別にちょっかいなんか出していないけど」
思いのほか低音で気だるそうな石野さんの声がした。
僕の単なる思い込みだが、石野さんの容姿からもっと高い声の人だと思っていた。
「うそ。だったら、どうして和也と喫茶店に行って、お茶してたのよ?」
ショートヘアの子は噛みつきそうな顔で石野さんに食ってかかる。
「あれは山田君が奢ってくれるって言うから一緒に行っただけよ。別にお茶飲むぐらいいいでしょう」
石野さんが面倒臭そうに言う。
「お茶飲んだだけじゃあないでしょう?」
なおもショートヘアの子は食い下がる。
「私、見たんだから。山田君にキスしてたでしょう。恵美のカレシって知ってるくせに」
今度はポニーテールの子が火に油を注ぐようなことを言う。ショートヘアの子はどうやら恵美というらしい。
「ああ」
石野さんはつまらなさそうな声を出した。
「何が『ああ』よ」
恵美さんの怒りはおさまらない。
「奢ってもらったから、何かお礼をしようと思って、何がいいって聞いたらキスだって言うからしてあげただけよ。あんなの挨拶程度よ。気にすることないわ」
石野さんはまったく何でもないように言う。
「キスが挨拶程度ですって!!あなた何人よ」
恵美さんは眉を逆立てた。
「本当に軽いわね」
今まで黙っていたツインテールの女の子も同調するように言う。
そりゃあ怒るわな。いくら何でもそれは駄目でしょう。
ここは日本だからその言い訳は通用しないと思うけど。
「そんな言い訳通用すると思ってるの!!」
ほらね。
恵美さんも怒っているでしょう。
「ああ、ウザい。そんなに大事なら他の女にちょっかい出さないように首に鎖でもつけて縛り付けたら。それにあの男がそんなにぎゃあぎゃあ騒ぐほどの男?」
石野さんが軽蔑するように恵美さんを見る。
「自分が誘っといてよくそんなこと言えるわね」
「はあー、私が誘った? 誰がそんなことを言ったの?」
「カレよ」
「ホント、つまんない男ね。カノジョが怖いから嘘をつくなんて」
石野さんが鼻を鳴らす。
「カレは嘘つかないわ」
恵美さんがヒステリックな声をあげた。
「どっちにしても、カレシが私についてくるのはあなたに魅力がないからでしょう。あなたに魅力があるなら他の女についていかないわよ。人に文句を言う前に自分の魅力のなさをなんとかしなさいよ」
石野さんが目を細めて睨みつける。なかなか迫力のある顔をしている。
「なんですって」
恵美さんの顔が怒りで真っ赤になる。
「もうやめなよ。こんな子にいくら言っても無駄だよ。どうせ顔だけの子なんだから。もう行こう」
ポニーテールの子が恵美さんをなだめるように言う。
「そうよ。相手にしちゃダメよ。行きましょう。顔だけで頭は空っぽなんだから相手にしても仕方ないわよ」
ツインテールの子も追従するように言う。
二人に促された恵美さんはすごい目つきで石野さんを睨みつけて教室を出て行く。
石野さんが人のカレシを取るし、男関係が派手ということで女子たちに評判が悪いという噂はどうやら本当のようだ。
「バアーカ」
石野さんは不機嫌な声を出すと、机に突っ伏した。
僕は固まったまま動けなかった。どう見ても石野さんは不機嫌じゃないか。
あんなに怒っている石野さんに話をしないといけないのか?
思わず、僕はこのまま自分の教室に戻ろうかと思った。
しかし、図書委員長の役目として来た以上何も言わずに帰るわけにはいかない。
僕は一つ大きな深呼吸をして、石野さんに近づいていった。
D組の顔見知りが声をかけてきた。
「ああ。石野さんいるかな?」
なにも悪いことはしていないが、なんとなくオドオドしてしまう。
「石野? ああ、あそこにいるよ」
窓側の一番後ろの席を指差す。
やっぱりいるのか。僕の願いは無残に打ち砕かれた。
指された方を見ると、石野さんとおぼしき女子の周りを3人の女子が取り囲んで何か話しをしている。
友だちがいないと聞いていたが、意外と人気者じゃないかと思って、少し気軽になり石野さんの方へ近づいていった。
「石野さん、私と和也が付き合っていること知っているわよね。それなのになんで和也にちょっかいを出すわけ?」
石野さんを取り囲んでいるうちのショートヘアのちょっと気の強そうな子の声が聞こえてきた。
お取り込み中のようなので、僕は少し離れたところで大人しく順番を待つことにする。
「あなたが誰と付き合ってるかなんて知らないし、別にちょっかいなんか出していないけど」
思いのほか低音で気だるそうな石野さんの声がした。
僕の単なる思い込みだが、石野さんの容姿からもっと高い声の人だと思っていた。
「うそ。だったら、どうして和也と喫茶店に行って、お茶してたのよ?」
ショートヘアの子は噛みつきそうな顔で石野さんに食ってかかる。
「あれは山田君が奢ってくれるって言うから一緒に行っただけよ。別にお茶飲むぐらいいいでしょう」
石野さんが面倒臭そうに言う。
「お茶飲んだだけじゃあないでしょう?」
なおもショートヘアの子は食い下がる。
「私、見たんだから。山田君にキスしてたでしょう。恵美のカレシって知ってるくせに」
今度はポニーテールの子が火に油を注ぐようなことを言う。ショートヘアの子はどうやら恵美というらしい。
「ああ」
石野さんはつまらなさそうな声を出した。
「何が『ああ』よ」
恵美さんの怒りはおさまらない。
「奢ってもらったから、何かお礼をしようと思って、何がいいって聞いたらキスだって言うからしてあげただけよ。あんなの挨拶程度よ。気にすることないわ」
石野さんはまったく何でもないように言う。
「キスが挨拶程度ですって!!あなた何人よ」
恵美さんは眉を逆立てた。
「本当に軽いわね」
今まで黙っていたツインテールの女の子も同調するように言う。
そりゃあ怒るわな。いくら何でもそれは駄目でしょう。
ここは日本だからその言い訳は通用しないと思うけど。
「そんな言い訳通用すると思ってるの!!」
ほらね。
恵美さんも怒っているでしょう。
「ああ、ウザい。そんなに大事なら他の女にちょっかい出さないように首に鎖でもつけて縛り付けたら。それにあの男がそんなにぎゃあぎゃあ騒ぐほどの男?」
石野さんが軽蔑するように恵美さんを見る。
「自分が誘っといてよくそんなこと言えるわね」
「はあー、私が誘った? 誰がそんなことを言ったの?」
「カレよ」
「ホント、つまんない男ね。カノジョが怖いから嘘をつくなんて」
石野さんが鼻を鳴らす。
「カレは嘘つかないわ」
恵美さんがヒステリックな声をあげた。
「どっちにしても、カレシが私についてくるのはあなたに魅力がないからでしょう。あなたに魅力があるなら他の女についていかないわよ。人に文句を言う前に自分の魅力のなさをなんとかしなさいよ」
石野さんが目を細めて睨みつける。なかなか迫力のある顔をしている。
「なんですって」
恵美さんの顔が怒りで真っ赤になる。
「もうやめなよ。こんな子にいくら言っても無駄だよ。どうせ顔だけの子なんだから。もう行こう」
ポニーテールの子が恵美さんをなだめるように言う。
「そうよ。相手にしちゃダメよ。行きましょう。顔だけで頭は空っぽなんだから相手にしても仕方ないわよ」
ツインテールの子も追従するように言う。
二人に促された恵美さんはすごい目つきで石野さんを睨みつけて教室を出て行く。
石野さんが人のカレシを取るし、男関係が派手ということで女子たちに評判が悪いという噂はどうやら本当のようだ。
「バアーカ」
石野さんは不機嫌な声を出すと、机に突っ伏した。
僕は固まったまま動けなかった。どう見ても石野さんは不機嫌じゃないか。
あんなに怒っている石野さんに話をしないといけないのか?
思わず、僕はこのまま自分の教室に戻ろうかと思った。
しかし、図書委員長の役目として来た以上何も言わずに帰るわけにはいかない。
僕は一つ大きな深呼吸をして、石野さんに近づいていった。