日もすっかり暮れてしまった、部活動の大会会場からの帰り道。
駅までの大通りを、仲の良い女子たちと歩いていた。
仲間たちとのお喋りはとても楽しいのだけれど、今の私は、心ここにあらず状態だった。
その理由は、私たちのほんの数メートル先を、片想い中の彼が歩いていたからだ。
「さっきの、絶対に友梨奈に言ったよね」
「え、三人に言ったんでしょ」
先ほど彼が私たちを追い抜いていったときの事。
〝お疲れ様です。また明日~〟
確かに目は合ったけれど、一つ後輩である彼は、私以外の二人にもちゃんと挨拶をしていったのだ。
これは私が彼をちゃんと見ていたのだから、絶対に間違いない。
「ふ~ん。でもなんかさ、歩くの遅くない? いつもの柊太だったら、もっと歩くの速いよね」
二人が私をにやにやと笑いながら見る。
確かに、先程から彼との距離があまり離れていかない気はしていた。
今年の大会は地元で行われたため、道に迷うことはないはずなのに。
私が彼の背中を見つめていると突然、隣を歩いていた茉莉が彼に向かって呼びかけた。
「柊太!」
すると、前を歩いていた彼が振り返った。
もうそれだけで、私の胸は落ち着きがなくなってしまう。
「今日は一人なんだね。駅まで一緒にどう?」
茉莉が叫ぶと、彼ははにかんだような笑顔でこう返した。
「え? いや、いいっすよ」
そしてまた、前を向いて歩き始めてしまった。
駅に着くまでの間、彼とは遠ざかったり近づいたりしながらも、私たちは一定の距離を保ったまま歩いていた。
そして駅に到着するとき、私たちは彼に追いついた。
「先輩、また明日っすね」
私が切符販売機の前に立ったとき、彼が私のすぐ隣に来て話しかけてくれた。
思わぬ出来事に、どきどきと鼓動が加速する。
彼は普段から電車通学で定期を持っているため、この駅からなら買う必要がない。
「うん、また明日だね」
改札を抜けると、彼は私たちとは逆方向に歩いていく。
その背中を見ていると、無性に追いかけていきたい衝動に駆られた。
「なんかさ、こういうのドラマみたくない? 好きな人を乗せた電車は、自分が乗る電車とは逆方向へ~ってやつ!」
恋愛ドラマが大好きな早紀が、少し興奮気味に私と彼を交互に見ながら言った。
「それ、あたしも思ったー!」
にやにやと笑っていた茉莉も早紀に同意を示した。
駅のホームまで歩いていくと、すでに向かい側のホームに着いていた彼が、笑顔でこちらに手を振ってきた。
「ほら! 柊太が手ぇ振ってるよ」
茉莉が私の腕をぐいぐいと押してくる。
「三人に振ってるんだよ」
そう言いつつ、私は彼に手を振り返した。
間もなくしてアナウンスが鳴り響き、電車が彼の居るホームへと滑り込んでくる。
彼はこちらに再び手を振ってから車内へと姿を消した。
そして数分後、私たちのホームにも電車が停車する。
私たちも車内へと足を向けた。
発車の音楽が流れて笛の音が響き渡る。
そしてほんの少し間があり、ゆっくりと扉が閉まった。
向かい側の電車を見つめる。
何故だろう、胸が苦しい。
また明日会えると分かっているのに、こんなにも胸が締めつけられるなんて――。
電車が徐々に加速していく。
普段電車に乗ることがないからだろうか。
遠ざかっていく彼を想って、更に胸が苦しくなった。
(ああ、もう、早く明日になれ!)
夜の街並みを瞳に映しながら、私は心に強く願った。
*了*
駅までの大通りを、仲の良い女子たちと歩いていた。
仲間たちとのお喋りはとても楽しいのだけれど、今の私は、心ここにあらず状態だった。
その理由は、私たちのほんの数メートル先を、片想い中の彼が歩いていたからだ。
「さっきの、絶対に友梨奈に言ったよね」
「え、三人に言ったんでしょ」
先ほど彼が私たちを追い抜いていったときの事。
〝お疲れ様です。また明日~〟
確かに目は合ったけれど、一つ後輩である彼は、私以外の二人にもちゃんと挨拶をしていったのだ。
これは私が彼をちゃんと見ていたのだから、絶対に間違いない。
「ふ~ん。でもなんかさ、歩くの遅くない? いつもの柊太だったら、もっと歩くの速いよね」
二人が私をにやにやと笑いながら見る。
確かに、先程から彼との距離があまり離れていかない気はしていた。
今年の大会は地元で行われたため、道に迷うことはないはずなのに。
私が彼の背中を見つめていると突然、隣を歩いていた茉莉が彼に向かって呼びかけた。
「柊太!」
すると、前を歩いていた彼が振り返った。
もうそれだけで、私の胸は落ち着きがなくなってしまう。
「今日は一人なんだね。駅まで一緒にどう?」
茉莉が叫ぶと、彼ははにかんだような笑顔でこう返した。
「え? いや、いいっすよ」
そしてまた、前を向いて歩き始めてしまった。
駅に着くまでの間、彼とは遠ざかったり近づいたりしながらも、私たちは一定の距離を保ったまま歩いていた。
そして駅に到着するとき、私たちは彼に追いついた。
「先輩、また明日っすね」
私が切符販売機の前に立ったとき、彼が私のすぐ隣に来て話しかけてくれた。
思わぬ出来事に、どきどきと鼓動が加速する。
彼は普段から電車通学で定期を持っているため、この駅からなら買う必要がない。
「うん、また明日だね」
改札を抜けると、彼は私たちとは逆方向に歩いていく。
その背中を見ていると、無性に追いかけていきたい衝動に駆られた。
「なんかさ、こういうのドラマみたくない? 好きな人を乗せた電車は、自分が乗る電車とは逆方向へ~ってやつ!」
恋愛ドラマが大好きな早紀が、少し興奮気味に私と彼を交互に見ながら言った。
「それ、あたしも思ったー!」
にやにやと笑っていた茉莉も早紀に同意を示した。
駅のホームまで歩いていくと、すでに向かい側のホームに着いていた彼が、笑顔でこちらに手を振ってきた。
「ほら! 柊太が手ぇ振ってるよ」
茉莉が私の腕をぐいぐいと押してくる。
「三人に振ってるんだよ」
そう言いつつ、私は彼に手を振り返した。
間もなくしてアナウンスが鳴り響き、電車が彼の居るホームへと滑り込んでくる。
彼はこちらに再び手を振ってから車内へと姿を消した。
そして数分後、私たちのホームにも電車が停車する。
私たちも車内へと足を向けた。
発車の音楽が流れて笛の音が響き渡る。
そしてほんの少し間があり、ゆっくりと扉が閉まった。
向かい側の電車を見つめる。
何故だろう、胸が苦しい。
また明日会えると分かっているのに、こんなにも胸が締めつけられるなんて――。
電車が徐々に加速していく。
普段電車に乗ることがないからだろうか。
遠ざかっていく彼を想って、更に胸が苦しくなった。
(ああ、もう、早く明日になれ!)
夜の街並みを瞳に映しながら、私は心に強く願った。
*了*