「じゃあ、今日はあたしが買いもの手伝ってあげる!
 どんな種類のパンが好き?」

「うんっと、一番好きなのはタティ・スコーン。
 最近ブリオシュも気に入ってて……」

「タティ……? ブリオシュ?
 ごめん、あたし、ソレ初めて聞いた。
 ……ん、できっと、購買部にも売って無いと思う」

「あっ……あああっと、良いです、あるモノなら何でも!
 ……っていうか、買えるモノだったら……なんでも」

 いつもお買物はカード払いで、現金は持ち歩かないものだから、今お財布にあるのも、電車代と少しぐらいだ。

 帰りも電車に乗るつもりなら、行きに宗樹に立て替えてもらった分ぐらいしか……無いんだけども。

「でも、こんなにちょっとでパン、買えるのかしら……?」

 ドキドキしながら、井上さんに見せたら……なぁんだ、全然大丈夫よと明るく笑った。

 そして、今買った自分の分を持っててって、わたしに預けると嫌な顔一つしないで、人ごみの中に飛び込んでゆく。

 さっきよりも、絶対お昼を買いに来た人、多くなっているのに!

 ……井上さんて、いいヒトだなぁ。

 そして、とても頼りがいのあるヒトだ。

 大勢のヒトの間から、井上さんが買って来てくれたのは、クリームパンと、焼きそばが挟んであるパン。

 そしてイチゴ味って書かれた牛乳だった。

 二人で持って帰って、教室で食べたその昼ごはんは、はっきり言うと大したものじゃない。

 カスタードクリームのクセにバニラビーンズが一粒も入ってなかったり、油っこい麺の詰まったパサパサパンだったりしたんだけど。

 それでもマズく感じなかったのは、きっと、わたしがお腹が減っていたことだけじゃなかった。

 井上さんとの話が楽しかったからなんだ。


 ……本当に。


 井上さんみたいなヒトが、オトモダチなら良かったのに。



……………


………