街で良く聞く流行りの歌……じゃない。

 それどころか、歌詞もない。

 けれども、高く、低く、響く声はとても良くて、一度聞いたら忘れられない声だった。

 わたし、小さい頃からピアノ習っていたし、毎朝爺の生演奏で起きるくらいだから耳は悪くない。

 絶対音感って言うの?

 ともすると小鳥の鳴き声も自動車の音もコレは『ド』とか『ファ』とか音階で聞こえちゃうんだけれど、この歌は違った。

 あまりにキレイで、音階を拾う前に心に響くんだ。

 今、目の前に広がる海のように力強いくせに、後ろで咲き誇る桜の花みたいに、華やかな。

 この鮮やかな景色の中に、吹き渡る風のように、透明で良く伸びる……声。

 胸がぎゅっと締め付けられるような、切ない声……

 高音部分がすごくキレイで、とても優しげな雰囲気に、女のヒトの声かな? って思ったけれど。

 ……違う。

「男のヒト、だね……」

 キレイな歌が響く元をきょろきょろ探し、見つけた声の主の後ろ姿は、君去津高、男子の制服を着ている。

「君去津って、合唱部、あったっけ……?」

 部活の朝練かな? って思ったけれど、歌っているのは彼一人で、他には誰もいない。

 それに、歌っているヒトの服装と雰囲気が……その。

 あまり大人しく部活をやってるイメージじゃない、っていうか……っ。

 声は、とてもとても優しいのに、見た目がすごいんだ。

 まず、髪の毛……プラチナブロンド。

 銀髪に限りなく近い金色の髪は、染めるか脱色してるんだろう……ね?

 もっのすご~~く、綺麗だけど!

 そして、耳にはピアス?

 あまり目立たない種類を選んでいるようだけど、昇る朝日にチカリ、と輝いた。

 君去津高校は、普通の進学校に近い公立高校だ。

 髪の毛の色を変えたり、アクセサリーの類いの持ち込みは、禁止だったはずじゃなかったっけ?

 そう思いながら見るとはなしに、顔を確認した時だった。

 驚いて、思わず「わぁ」とか言っちゃった。

 このヒトも、イケメン。

 そして。

 顔、役者さんみたいに整っているんだけど……それは良いんだけど。

 ……誰かとケンカした跡のような傷があったんだ。

 きっ……君去津高のヒトってみんなイケメン?

 ん、で、ケンカっ早いの……!?

 昨日は、どっかでお祭りでもあったかなぁ?
 
 びっくりしてあげたわたしの『わあ』って声に気がついたらしい。

 彼は歌をやめて、こっちを見た。

 その視線の元が……瞳が。

 深い深い青色だってことに気がついて息をのむ。