もし、風景に効果音がつくんだとしたら。
どわっ!
……って言う音が似合う量の桜の花に、わたしはいつの間にか、包まれていた。
君去津駅で、宗樹と別れてすぐ。
彼の顔が見れなくて。
お化けになんて、会いたくなくて。
足元ばかり見て歩いていて、気がつかなかったけど、ここ!
君去津高校までの道のりの景色はとても、キレイだった。
駅からすぐに続く上り坂を速足で歩いているうちに、息が切れ、見あげた空は一面、満開の桜の花に埋まってた。
車が一台しか入れないほど細く、かろうじて舗装されているこの道は、高校に行くための裏道に当たるらしい。
登校するヒトも、散歩するヒトもなく。
しん、と静まり返った桜並木は、今、わたしだけの特別な景色だ。
「なにこれ……すご……」
伸ばした手のひらに一枚、桜の花びらがふわりと落ちて来て、わたしは思わず、握った手を抱きしめた。
今まで君去津には、願書提出と受験の時に来たはずだったんだけど。
その時は運転手のついている車だったし。
表は目立ちすぎるから、ここの近所の方から回って来たのに、その時はこんなキレイな景色が隠れてるなんて、知らなかった。
桜吹雪っていう言葉は良く聞くけど、わたしが見ているこの風景は、まるで桜の花火だ。
どん、と空に上がって開いた花火が咲くように、太く、細く、様々な太さの枝が、真上に、横にすっと伸びている。
その枝の一本一本には、数えきれない数の花弁がついていて、それがまるで花火の中の火の子みたい。
花火が開いた瞬間を、そのまま止めたように見えた。
きれい……
綺麗~~
初めて体験した電車通学の事もすっかり忘れ、花に引き寄せられるように、心の中で『キレイ』を連呼してた。
ここがちょっとキツイ、斜め過ぎる坂だってことも全然気にならない。
足取りとテンション高く、桜の坂の天辺まで着いたら今度は、また別の風景がどわっと広がっていた。
今度は、海!
桜の並木を抜けた小高い丘から見た海は、空との境界線がとても曖昧で、わたしの視界は薄桃色から一変、蒼一色に変わったんだ。
「うわ~~」
その鮮やかな色の交代に、思わず、ため息と一緒に声が出る。
そして、無音だった桜並木と違い、海には音があった。
ううん『音楽』があった。
寄せては返す、海の波。
ざざざざっと言う潮騒の音が、誰かの声を……歌を一緒に、わたしの耳まで、連れて来てくれたんだ。