横断歩道を渡り終えると、三笠くんは
「こっち」
 と右手の方に進んでいく。私もそれに従う。
「この通りは、昔は街道の宿場町だったんだよ」
 と三笠くんの解説。
 その話は、郷土の歴史とかで小学生くらいの頃に聞いた記憶がある。

 大通りから暫く進むと、土蔵や商家の連なる古い町並みに変わる。
 それぞれ、何がしかの商いを営んでいるのだろうが、看板がないので何屋さんかは
外からでは分からない。
 数軒分進んだところで、三笠くんが自転車を停める。
 そこは、「和菓子 仁連《にれ》屋 本店」の看板のある店の前だった。
 古い町並みの景観に合わせて、土蔵風の建物になっているが、建ったばかりの店の
ように見て取れる。だいたい、入り口からして自動ドアだ。
 軒の上に掲げられた古色蒼然の看板が、己が老舗である事を静かに主張している。

 三笠君は、ここだよ、といいながら店の中に入っていく。
 えーっ? 猫守神社に行くんじゃなかったの?
 疑問に思いながらも、私は自転車の前カゴから翠を抱き上げ、三笠君に続き、店の
中に入っていく。
 店の中は意外に広かった。正面にガラスのショーケースがあり、中にはドラ焼き、
水羊羹、饅頭、葛餅などなど、いろいろな菓子類が飾られている。
 右手には小さなテーブルと椅子が置かれ、小さな喫茶室になっている。
 きっと、ここで食べていくお客さんもいるのだろう。